コラム

国力を削ぐ「人口減少」問題は、「移民の受け入れ」では解決できない

2021年12月15日(水)17時33分
少子高齢化

OLEG ELKOV/ISTOCK

<生産年齢人口が急速に減少している日本だが、単純労働を担う外国人労働者の受け入れは、むしろ状況のさらなる悪化を招きかねない>

経済活動の主な担い手である生産年齢人口の減少が急ピッチで進んでいる。日本は高齢化と人口減少が同時に進んでおり、高齢者の寿命が延びていることから、消費よりも生産を担う人口が先に減少していく。政府は移民による単純労働者の大量受け入れで対応しようとしているが、正しい処方箋とは言えない。

総務省が発表した2020年国勢調査の結果によると、15~64歳の生産年齢人口は7508万7865人となっている。5年前の前回調査と比較すると226万6232人の減少となっており、ピークだった1995年との比較では13.9%も減った。これに対して総人口の減少は5年間で94万8646人なので生産年齢人口の減少ペースのほうが圧倒的に速い。社会の高齢化が急ピッチで進んでいるため、消費する人よりも生産する人が少ない社会に近づきつつある。

生産に従事する人が減れば、企業の生産力が低下し、GDPの低迷につながる。政府や経済界はこうした状況に対し、単純労働者の移民受け入れ拡大で対応しようとしている。政府は外国人の在留資格である「特定技能」について、範囲を大幅に拡大することを検討中だ。制度が変更になった場合、家族の帯同も可能となり、将来的には永住権の取得も可能となることから、事実上の移民の大量受け入れ策と考えてよい。

安倍政権が進めた移民政策

特定技能は安倍政権が成立させた改正出入国管理法に基づく在留資格である。自他共に保守を自任する安倍政権が、単純労働に従事する移民を大量に受け入れる政策を開始したことは、全くもって奇妙な出来事としか言いようがないが、日本においては、論理的に矛盾する政策が同居するのは珍しいことではない。

ただ、単純労働に従事する移民の大量受け入れは、社会や経済に対する影響が極めて大きく、慎重に対処すべき問題である。

生産年齢人口の減少よりも全体の人口減少が緩やかということは、生産に従事する国民は減っているものの、消費する国民の数はそれほど減っていないことを意味している(退職した高齢者は生産には従事しないが消費者であり続ける)。経済というのは需要(消費)と供給(生産)で成り立っており、需要側はまだ存在しているので、生産年齢人口の減少が即、経済規模の縮小につながるわけではない。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

世界の石炭需要、今年過去最高に 30年までには減少

ビジネス

ホンダ、日本と中国の工場で年末年始に稼働停止・減産

ワールド

インドネシア中銀、3会合連続金利据え置き ルピア支

ビジネス

英CPI、11月は前年比+3.2%に鈍化 3月以来
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story