コラム

米FRBパウエル議長の再任で、日本はさらに「悪い円安」に苦しめられる

2021年11月30日(火)20時47分
FRBパウエル議長

YURI GRIPAS-REUTERS

<パウエル議長は予定通りに量的緩和の縮小や金利引き上げを実施すると見られ、日本にとっては厳しい状況が待っている>

アメリカの中央銀行に当たるFRB(連邦準備理事会)議長人事をめぐりジェローム・パウエル現議長の再任が確実となった。民主党内からFRBのラエル・ブレイナード理事を推す意見が出ていたが、ジョー・バイデン大統領は政策の継続性を優先した。為替市場では円安が進んでおり、パウエル氏の再任は円売りの号砲となる可能性がある。

FRB議長の任期は4年となっており、パウエル氏は来年2月に1期目を終える。1期で退任した前任のジャネット・イエレン氏はむしろ例外で、政治的に面倒なことがなければ議長として2期8年務めるケースが多い。

最近までパウエル氏の再任はほぼ確実と言われていたが、パウエル氏がドナルド・トランプ前大統領から指名されたという経緯や、金融業界寄りであることを問題視する意見が民主党内から出たことで風向きが少し変わっていた。

トランプ氏はパウエル氏を指名したものの、パウエル氏が行う金融政策に対してはことごとく不満を漏らしており、一時は更迭を口にしたこともあった(ルール上、大統領が更迭することはほぼ不可能)。これはパウエル氏が、政治とは一定の距離を置き、中央銀行トップとして粛々と実務を行ってきたことを意味している。

よりハト派だったブレイナード

金融業界に対するスタンスはともかく、肝心の金融政策においてパウエル氏とブレイナード氏にそれほど大きな隔たりはない。ただ、ブレイナード氏はパウエル氏以上にハト派(景気に対する配慮を優先し、金利引き上げといった金融政策の正常化については慎重なスタンス)とされており、仮にブレイナード氏が指名された場合、正常化のタイミングが遅くなる可能性は否定できなかった。

FRBは量的緩和策の縮小(テーパリング)開始を決めており、今後、中央銀行による国債購入額は減っていくと予想される。量的緩和策の縮小が進めば長期金利はさらに上昇する可能性が高く、場合によっては景気を冷やしかねない。この辺りの舵取りをどうするのかがFRB議長の腕の見せどころだが、パウエル氏の再任が確実になったことで、正常化は予定どおり実施される可能性が高くなった。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「非常に生産的」、合意には至らず プーチ

ワールド

プーチン氏との会談は「10点満点」、トランプ大統領

ワールド

中国が台湾巡り行動するとは考えていない=トランプ米

ワールド

アングル:モザンビークの違法採掘、一攫千金の代償は
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 5
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 6
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 7
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 8
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 9
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 10
    輸入医薬品に250%関税――狙いは薬価「引き下げ」と中…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story