コラム

「テスラ家電」「アップル自動車」の破壊的イノベーションに備えよ

2021年02月03日(水)12時12分

ALY SONGーREUTERS

<テスラによるエアコン事業参入は、同社が持つ中核技術と将来的な狙いを考えれば何の不思議もない>

コロナ危機の深刻化で各企業は業績低迷に苦しんでいるが、こうした状況にもかかわらず、水面下では想像を超えるイノベーションが進行している。気が付いたときには、多くの業界で主役が交代しているかもしれない。

電気自動車(EV)大手のテスラは、家庭用エアコン事業への参入を検討している。正式発表はないが、イーロン・マスクCEOは「家庭用エアコン事業を2021年に始めるかもしれない」と発言しているので、何らかの準備をしているのは間違いないだろう。EVメーカーのテスラがなぜ家電に進出するのかいぶかしむ声もあるが、マスク氏の本当の狙いが分かればその意味もハッキリしてくる。

EVの基幹部品であるバッテリーは、かつて日本メーカーの独壇場だった。だが厳しい使用環境に耐える大容量バッテリーの開発は難航し、この壁を乗り越えたのが、バッテリーについて何の技術も持たないテスラだった。同社は持ち前の高度なソフトウエア技術を駆使し、既存の電池セルを流用する形であっという間にEV用大出力バッテリーを開発してしまった。

つまりテスラの中核技術は自動車ではなく電力を制御するソフトウエアにある。テスラは再生可能エネルギーの普及を見込み、太陽光パネルに接続できる家庭用蓄電池システムを商品化しており、日本国内でも既に販売している。

アップルは自動車分野に参入か

再生可能エネルギーが主流になれば、多くの世帯がバッテリーや発電設備を備え、相互接続されるのは確実である。広域分散電力システム(いわゆるスマートグリッド)の安全な運用のカギはソフトウエアであり、テスラはその中核技術を握っている。

つまり、EVや家電製品、バッテリー、太陽光パネルは全て「電力」というキーワードを介して相互に結び付くことになり、テスラはこの分野での圧倒的なナンバーワンを狙っているのだ。

当然、この動きは自動車業界のパラダイムシフトとセットになる。正式発表は行われていないが、米アップルは自動車分野への参入準備を進めており、近くEVを製品化する見通しである。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏インフレは当面2%程度、金利は景気次第=ポ

ビジネス

ECB、動向次第で利下げや利上げに踏み切る=オース

ビジネス

ユーロ圏の成長・インフレリスク、依然大きいが均衡=

ビジネス

アングル:日銀、追加利上げへ慎重に時機探る 為替次
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 10
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story