コラム

日本経済の悪しき習慣「中抜き」が、国と国民を貧しくしている

2020年07月29日(水)18時26分

PETER CSASZAR/ISTOCK

<持続化給付金の再委託問題で注目された「中抜き・丸投げ」が、日本経済の大きな足かせとなっている構図を解説>

政府の持続化給付金事業を受託した組織が、業務を外部企業に再委託していたことが問題視されている。税金を使った事業であることから世間の批判を集めることになったが、業務を請け負った企業が一定の利益を控除したのち、別の組織に再発注するという、いわゆる「中抜き」や「丸投げ」は、日本の企業社会において特段、珍しい光景ではない。この商習慣は重層的な下請け構造と密接に関係しており、日本の生産性を引き下げる要因の1つとなっている。

よく知られているように日本の労働生産性は先進国中最下位であり、一度も最下位から脱却したことはない。労働生産性は賃金や経済成長と極めて密接な関係があり、労働生産性が低いことが日本の低賃金や低成長の原因である可能性は高い。

生産性の伸び悩みにはさまざまな要因があるが、その1つとされているのが硬直化した産業構造である。日本の産業界では、元請け企業が下請け企業に発注し、下請け企業はさらに孫請け企業に発注するという重層的な下請け構造がよく見られる。産業が階層構造になること自体は海外でも珍しいことではなく、役割分担に応じて適切な構造を形成するのであれば何の問題もないが、ヒエラルキーの維持が目的化されてしまうと著しい非効率化を招く。

人口当たりの会社数が多い日本

統計の取り方にもよるが、日本はアメリカと比較して人口当たりの会社数が19%も多い。人口比で会社数が多いということは企業規模が相対的に小さいことを意味しており、実際、中小企業で働く労働者の比率はアメリカよりも高い。つまり、日本は人口に比して会社数が多いということだが、原因の1つが中間マージンを取ることだけを目的にするムダな事業者の存在である。

元請け、下請け、孫請け、それぞれの企業に管理部門が存在しており、その分だけ人件費が余計にかかる。各企業は利益を上げる必要があることから、再委託されるたびに業務の付加価値は減っていく。

例えば、システム開発を(1人のシステムエンジニアが1カ月で行う作業量の対価として)150万円で顧客が発注しても、元請け企業が40万円を中抜きすれば下請け企業には110万円しか渡らない。さらに下請け企業が30万円を中抜きすると孫請け企業は80万円で仕事を受けることになるため、最終的には単価が半分近くになってしまう。

【関連記事】
・コロナ危機を乗り切れる? 日本企業の成長を妨げる「7大問題」とは
・日本的経営の「永遠の課題」を克服すれば、経済復活への道が開ける

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネスなどの分野で執筆活動を行うほか、テレビやラジオで解説者やコメンテーターを務める。『お金持ちの教科書』(CCCメディアハウス)、『スタグフレーション』(祥伝社新書)、『本気で考えよう! 自分、家族、そして日本の将来』 (幻冬舎新書)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ホルムズ海峡通過船舶、停戦後も事実上停滞 追跡デー

ワールド

イスラエルのレバノン攻撃は停戦合意違反、交渉無意味

ビジネス

金融庁、プライベートクレジット問題で実態把握 大手

ビジネス

インタビュー:中東情勢収束のめど立たず、今期業績予
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 3
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライナ軍司令官 ロシア軍「⁠春の​攻勢」は継続
  • 4
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 5
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 6
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 7
    戸建てシフトで激変する住宅市場
  • 8
    高学力の男女で見ても、日本の男女の年収格差は世界…
  • 9
    キッチンスポンジ使用の思いがけない環境負荷...マイ…
  • 10
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 4
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 7
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 8
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 9
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 10
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story