コラム

コロナ給付金の財源問題も即解決だが......取り扱い注意なトービン税とは

2020年07月01日(水)11時50分

SARINYAPINNGAM/ISTOCK

<コロナ経済対策として、ベーシック・インカムとともに諮問委メンバーが言及した「財政の切り札」。そのインパクトと危険性は?>

新型コロナウイルスに関する「基本的対処方針等諮問委員会」のメンバーに経済の専門家として加わった小林慶一郎氏(東京財団政策研究所研究主幹)が、感染対策によって増大する財政問題の解決策として「トービン税」の導入を提唱して話題となっている。

トービン税は金融取引にごくわずかな税金をかけるというもので、財政問題の切り札とされる一方、国家主権を脅かす可能性があるため、ある種のタブーにもなっていた。あくまで小林氏の私的見解だが、コロナ危機をきっかけにトービン税の議論が出てきたことは非常に興味深い。

小林氏は米メディアの取材に対し、コロナによって影響を受けた個人の生活を支援するため全国民に最低限の所得を保障する「ベーシック・インカム」を検討すべきとの考えを示した。加えて感染症対策の財源としてトービン税の導入についても言及した。

トービン税は米ノーベル賞学者ジェームズ・トービン氏が1970年代に提唱した税制で、外国為替など金融取引に対してごくわずかな税金をかけるというものである。当初は為替取引の安定性確保が主目的だったが、その後、財源確保という部分に焦点が当たるようになった。

従来の税金は主に所得や消費に対して課税する。所得税は個人の所得に対して、法人税は法人の所得に対して、消費税は個人の消費に対してかける税金である。金融取引の場合、利益が出れば現在でも課税対象となるが、取引そのものは課税対象にはなっていない。ここに税金をかけるのがトービン税である。

数兆円の税収は簡単に捻出できる

金融取引の規模は、モノやサービスなどリアルな取引とは比べものにならない。外国為替取引ひとつをとっても、日本における取引量は1日40兆円を超える。日本の年間GDPは550兆円なので、金融取引の規模の大きさがお分かりいただけるだろう。わずかな税金をかけるだけで、数兆円程度の税収はごく簡単に捻出できるので、トービン税は財政の切り札とも言われる。

だが、トービン税は全世界で同時に導入しなければ意味がない。例えば日本だけトービン税を導入すると、日本の金融取引は全て海外に逃げてしまい、金融システムが機能しなくなってしまう。トービン税を機能させるには、全ての国が一切の不正を行わず同時に実施する必要がある。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国船、尖閣諸島海域を通過 海警局が発表

ワールド

インド中銀が輸出業者の救済策発表、米関税で打撃 返

ワールド

シカゴとポートランド派遣の州兵、一部撤退へ=米当局

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story