コラム

新型コロナによる経済損失を「スペイン風邪」の歴史から考える

2020年05月19日(火)12時12分

スペイン風邪は最初の流行後も第2波、第3波が起きた US ARMYーHANDOUTーREUTERS

<世界で4000万人が犠牲になったのに、経済への影響が大きくなかったのはなぜ? 当時と現在で共通する日本経済の問題点とは?>

新型コロナウイルスによって各国経済に深刻な影響が及ぶことが確実視されている。日本でも2020年4~6月期のGDPは年率換算で20%以上のマイナス見通しで、通年でも数%減となる可能性が高い。

経済界では今後の計画すら立てられない状況だが、こうした危機の際、もっとも頼りになるのは歴史である。100年前に発生したスペイン風邪が経済にどのような影響を与えたのか考察する。

スペイン風邪は1918年から20年にかけて大流行したインフルエンザである。全世界で4000万人が死亡したとされ、日本国内でも40万人近くの犠牲者を出した。一斉休校やマスクの着用など、いま行われているものとほとんど同じ対策が実施されている。

旧内務省の資料によると、感染が完全に終息するまでに3年を要した。その間に流行のピークは3回も発生しており、いずれも冬の時期に集中している。多くの感染症専門家が、今年の冬に再び感染爆発が発生する可能性が高いと指摘しているのは、この事例を参考にしているからである。

当時より医療水準が向上したとはいえ、ワクチンも完璧な特効薬も存在していないという点で状況はあまり変わっておらず、国際的な人やモノの移動はむしろ活発になっているので、環境が悪化している面もある。感染症の専門家がスペイン風邪を参考にして対策を決定しているのであれば、経済面でも有益な情報源になるはずだ。

スペイン風邪の経済への影響は?

意外に思うかもしれないが、これだけ猛威を振るったにもかかわらず、スペイン風邪は経済にそれほど大きな打撃を与えなかった。スペイン風邪の流行は第1次大戦中に発生しており、戦争特需のほうが感染症によるマイナス効果を上回ったことから経済は堅調に推移した。

特に戦禍に見舞われなかった日本は空前の好景気となり、戦争期間中の平均成長率(実質)は6.5%に達したほか、株価も高騰し、80年代のバブル経済を彷彿とさせる大相場になった。

では、感染症は経済に大きな影響を与えないと結論付けてよいかというとそうではない。スペイン風邪は結果的に第1次大戦を終了させるきっかけとなり、終戦を境に世界経済の状況は大きく変わった。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

再送(5日配信の記事)-川崎重工、米NYの地下鉄車

ワールド

アルゼンチン通貨のバンド制当面維持、市場改革は加速

ビジネス

スズキ、4ー9月期純利益は11.3%減 通期予想は

ワールド

ベトナム輸出、10月は前月比1.5%減 前年比では
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイロットが撮影した「幻想的な光景」がSNSで話題に
  • 4
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 5
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 6
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 7
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 8
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story