コラム

シェアリング・エコノミーのGDP反映について検討を開始したのはいいけど、日本を待ち受ける笑えない未来

2018年08月21日(火)13時00分

欧州やアメリカではシェアリング・バイクもかなり普及しているが…(写真はイメージ) JillianCain-iStock

<市場規模を試算したことは評価できるが、一方で政府はライドシェア(ウーバー)や民泊は厳しく制限!......大事な部分の議論が抜けている>

政府がシェアリング・エコノミーの市場規模把握に乗り出した。従来の基準ではフリマアプリにおける商品のやり取りはGDP(国内総生産)に反映されないため、シェアリング・エコノミーの規模が拡大するにつれ、実体経済と経済統計に乖離が生じる可能性が高まってくる。

一方、政府は、ライドシェアを禁止したり、民泊を厳しく制限するなど、シェアリング・エコノミーに対して否定的なスタンスを取っている。経済統計の再検討をきっかけに、一連の規制についても再検討する必要があるだろう。

従来のGDP統計では中古品はカウントされない

内閣府は2018年7月、フリマアプリや民泊など、シェアリング・エコノミーのサービス市場が5000億円を超えるとの試算を公表した。政府がシェアリング・エコノミーの市場規模について試算を行うのは初めて。

シェアリング・エコノミーの普及が十分ではない段階でこうした調査を行ったのは、シェアリング・エコノミーの台頭によって、将来的にGDP統計と実体経済の乖離が発生する可能性が指摘されているからである。

従来のGDPの定義では、中古品の売買は新しい付加価値を生み出したわけではないので、仲介事業者が稼ぐ手数料以外はGDPには反映されない。例えばフリマアプリなら、メルカリが受け取る手数料はGDPに反映されるが、売り手と買い手のやり取りはGDPの対象外となる。

社会があまり成熟していなければ「新しい付加価値=新しいモノ」という考え方で問題はないが、成熟社会では必ずしもそうとはいえなくなってくる。

経済学には、お金を使うことによって得られる満足度合いを示す「効用」という概念があり、私たちは効用を求めてお金を支出していると解釈される。つまり価値の源泉は効用にあり、これを金額で示すためのツールがGDPということになる。

効用=価値であるならば、メルカリでモノを買う人は、明らかに効用を求めてお金を支出しているので、そこには何らかの付加価値が生じていることになる。過去に生産されたものであっても、買う本人にとっては関係のない話であり、新品の製造だけに付加価値を見いだすという従来のGDPの概念だけでは、経済の実態を把握しきれなくなる。

ここ数年、シェアリング・エコノミー企業が急成長してきたことから、専門家の間から、この問題が指摘されるようになってきた。今回の市場規模把握は、このギャップを埋めるための第一歩ということになる。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

シンガポール、米ナスダックとの二重上場促進へ 来年

ビジネス

金利水準は色々な要因により市場で決まる、直接的な数

ワールド

伊プラダ、さらなる買収検討の可能性 アルマーニに関

ワールド

トランプ氏、マムダニ次期NY市長と21日会談 ホワ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 5
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 8
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 9
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 10
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story