コラム

シェアリング・エコノミーのGDP反映について検討を開始したのはいいけど、日本を待ち受ける笑えない未来

2018年08月21日(火)13時00分

今のところ市場規模は5000億円だが

調査では、シェアリング・エコノミーについて、①スペースを貸し借りする事業(民泊など)、②中古品をやり取りする事業(フリマなど)、③スキルや時間をやり取りする事業(クラウドソーシングなど)、④お金をやり取りする事業(クラウドファンディング)の4パターンに分類し、それぞれ市場規模の推定を行っている。

一方、経済統計との関連性という点では、従来の経済統計の範疇外となるもの、従来の範疇に属するが補足できていないと考えられるもの、すでに経済統計で把握されているもの、という3つのカテゴリーを用意した。これらの項目でマトリックスを作成し、最終的な市場規模を算出する。

それによると、民泊に代表される空きスペースを融通するタイプのビジネスについては1400億円~1800億円、フリマなどモノの売買に関するビジネスは3000億円の市場規模があると推定された。このほかスキルや時間を提供するビジネスや、ソーシャルレンディングなど資金を融通するビジネスを合わせると、合計で4700億円~5200億円の市場規模があるとしている。

現在、日本のGDPは530兆円あるので、数字の絶対値としてはまだ小さな額である。

だが、今後、シェアリング・エコノミーが拡大するのは確実という状況を考えると、将来的には何らかの形でこれらの経済活動を指標に反映させていく必要があるだろう。政府では、経済統計にどうすれば適切に数字を反映できるのか、検討を進めていく方針だという。

今後、台頭が予想される新しいビジネス形態について、経済指標に反映しようという試みは自体は評価してよいだろう。だが、今回の試算についてはまったく別の見方もできる。試算の内容が、日本が置かれている現状をはからずも露呈する結果となっているからだ。

日本では事実上、シェアリング・エコノミーが禁止された状態にある

すでにお気づきの方も多いと思うが、先ほど列挙したビジネスモデルのカテゴリーには、シェアリング・エコノミーの中核とされる、ある重要なビジネスが欠落している。それはウーバーに代表されるライドシェアである。

日本ではタクシー業界による猛烈なロビー活動の結果、ウーバーは事実上、日本市場に本格進出できない状態が続いている。ソフバンクグループも、資本参加している中国の配車アプリ滴滴出行の日本進出を進めているが、あくまでタクシーの配車に限定しており、ライドシェアは手がけていない。このビジネスは日本では禁止されているため、試算における対象外となっているのだ。

ソフトバンクは、ウーバーやグラブ、オラ、滴滴など、世界の主要配車アプリをすべて傘下に収めており、全世界におけるシェアリング・エコノミーの中心的な存在となっている。だが、ソフトバンクが本拠を構える日本だけが、ライドシェアを完全禁止にしているというのは、皮肉というよりほかない。同社の孫正義社長は日本の閉鎖的な規制について強く批判しているが、今のところ状況が変わる兆しは見えない。

民泊についても、2018年6月に民泊新法が施行され、一定の条件下で民泊が認められたが、設定された宿泊日数制限を考えると、事実上の禁止に近い措置といってよいだろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米の雇用主提供医療保険料、来年6─7%上昇か=マー

ワールド

ウクライナ支援の有志国会合開催、安全の保証を協議

ワールド

中朝首脳が会談、戦略的な意思疎通を強化

ビジネス

デジタルユーロ、大規模な混乱に備え必要=チポローネ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story