コラム

トヨタが抱える憂鬱と希望 淘汰の時代に立ち向かう術とは

2017年08月15日(火)12時00分

今年1月のデトロイトモーターショーで登壇した豊田章男社長 Mark Blinch-REUTERS

<自動車業界再編に次世代エコカーシフト。同業他社へ救いの手を差し伸べるトヨタ自体も、国策とEV生産に頭を抱えている?>

トヨタが今期(2018年3月期)の業績見通しについて上方修正を行った。2017年3月期の決算では大幅な減収減益を余儀なくされたが、足元の4~6月期決算は売上高が前年同期比で7%増加するなど、まずまずの内容であり、これによって通期の見通しも引き上げられた。だがトヨタの周辺には何とも憂鬱な雰囲気が漂っている。目先の業績はともかく、かつて経験したことのない大きな難題がトヨタの前に立ちはだかっているからだ。

自動車産業は淘汰の時代に入った

トヨタを憂鬱にさせる原因となっているのは、国内自動車産業の再編と次世代エコカー戦略である。トヨタは日本経済を支える大黒柱であると同時に、日本では数少ないグローバル・カンパニーである。それゆえにトヨタが背負う重荷は他の国内企業とは比較にならい。

これは、先日のマツダとの提携話にもあてはまる。

トヨタとマツダの両社は8月4日、相互に約500億円を出資して資本提携を行うと発表した。米国において共同で新工場を建設するほか、電気自動車(EV)の開発でも協業するという。

世界の自動車販売は好調な米国経済に支えられ、これまで順調に拡大してきたが、米国では新車需要をかなり先取りしてしまったとも言われており、そろそろ市場が頭打ちになる可能性が指摘されている。こうした環境においては、大手による寡占化が進む可能性が高まってくる。

実際、自動車業界は大手4社による寡占化の傾向が鮮明になっている。2016年の世界新車販売台数は、1位が独フォルクスワーゲン(VW)で1031万台、2位がトヨタで1017万台、3位はゼネラルモーターズで1000万台、4位は仏ルノー・日産連合で996万台だった。5位は韓国現代、6位は米フォードとなっているが上位4社とは少し開きがある。今年はルノー・日産連合の傘下に入った三菱自動車の生産が回復しているので、上位4社への集中化はさらに進むだろう。

こうした市場では中堅以下のメーカーはかなり厳しい展開を余儀なくされる。今回のトヨタとマツダの提携はあくまで両社の協業が目的だが、中長期的にはマツダ救済という側面があることは否定できない。トヨタは今年2月にスズキと業務提携しているが、業界では「遺言提携」などと呼ばれており、スズキの創業家がトヨタに生き残りを託したとも言われる。

トヨタはすでにダイハツとスバル(旧富士重工)をグループに取り込んでいるが、中堅以下の国内メーカーが続々とトヨタに助けを求める図式となっている。トヨタにとってシェアを高めることは重要だが、マツダの売上高はわずか3兆2000億円とトヨタの8分の1以下の規模しかない。

マツダ側に圧倒的にメリットのある提携をトヨタが受け入れたのは、トヨタが自社のことのみならず、日本の自動車産業全体のことを考えているからに他ならない。ニッポンを背負うトヨタにとっては、自らのことだけを考えればよいという状況にはないことがよく分かる。

【参考記事】ウーバーと提携したトヨタが持つ「危機感」
【参考記事】世界の武装ゲリラがトヨタを愛する理由

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日本との関税協議「率直かつ建設的」、米財務省が声明

ワールド

アングル:留学生に広がる不安、ビザ取り消しに直面す

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 6
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 7
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story