コラム

テロは経済に「ほとんど影響しない」と言える理由

2015年11月24日(火)16時43分

 株価も基本的には世界経済と強くリンクするので、テロと株価についても、似たような結果になることが予想される。実際、ダウ平均株価の年間上昇率とテロの発生件数を比較すると、相関係数はプラス0.05となった。やはりテロと株価もほとんど連動していないということになる。少なくとも数字の上からは、テロの発生は経済や投資に影響しないと考えてよさそうだ。

米国が軍事費を減らすとテロが増える

 日本人の多くは、これまで大規模なテロに巻き込まれたことはなかったと認識しており、一部の人は、もし国内で大規模なテロが起こったらどうなるのかと不安に感じている。だが日本は多くの人がイメージしているほど、テロと無縁な国家というわけではない。

 1991年には反イスラム的とされた書籍『悪魔の詩』を翻訳した筑波大学の助教授が何者かに暗殺されるという事件が起こっているし、1995年には地下鉄サリン事件が発生した。死者13名、負傷者6000名以上を出したこの事件は、負傷者数では世界のテロ事件の中でもトップクラスとなっている。グローバルに見ると、日本は9.11テロに匹敵する大規模テロを経験した国であり、実際、世界の警察・公安関係者の間では、そのように認識されている。

 だがこれらの事件によって、日本の経済活動が大きく停滞することはなかった。戦前の昭和期には、血盟団事件など右翼による要人殺害テロが頻発していたが、世界恐慌後に実施された高橋財政によるインフレ政策の影響が大きく、むしろ株価は好調に推移していた。過去においてもテロはあまり経済に影響していない。

 ただ、このところテロの発生件数が急増しているのは少々気がかりである。国際的なテロ事件の中でイスラム過激派が関与しているケースは多く、米国の外交戦略との関連性が高いことは容易に想像できる。ちなみに米国はオバマ政権の成立以後、世界の警察官として振る舞うことをやめ、中東への関与を大幅に低下させている。同時に史上最大規模の軍縮も併せて実施しており、中東方面に配備する軍の規模を縮小してきた。

 先ほどのテロの発生件数と米国の軍事費の増加ペース(1年あたりの増加率)について相関を取るとマイナス0.5という数字が出てくる。つまり米国が軍事費を増やすとテロが減り、軍事費を減らすとテロが増加するという関係である。あくまでこれは相関関係なので、明確な因果関係があるのかは分からない。だが、このところのテロ増加と世界の紛争に関知しないという米国の外交戦略は深く関係している可能性が高い。

 オバマ政権より前の時代、各国は、米国が中東に対して軍事力を行使することがテロの増加につながるとして米国を強く批判していた。だが、いざ米国が中東から手を引くと、今度は米国に対して中東への強い関与を求めるという皮肉な状況となっている。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏の訪ロ招待「検討中」、現時点で準備ない=

ビジネス

FRBの金融政策「適切」、労働市場巡るリスクを警告

ビジネス

FRBの独立性に対する脅威は「非常に深刻」=英中銀

ビジネス

英財務相、11月26日に年次予算発表 財政を「厳し
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 5
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 6
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 7
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 9
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story