コラム

独立直後のイスラエルが行ったパレスチナ人の「民族浄化」を告発する

2018年02月07日(水)16時09分

第1次中東戦争でのイスラエルの独立については、周辺のアラブ諸国から攻め込まれたイスラエルはわずかな軍隊しかなく、勝てる見込みはなかったが、アラブ諸国の足並みの乱れと、ユダヤ人の必死の抵抗によって、最終的な勝利を手にした、というのが一般的に説明されていることである。

イスラエル外務省はウェブサイトに<エジプト、ヨルダン、シリア、レバノン、イラクの正規軍がイスラエルに侵攻してきたため、イスラエルは祖国において回復した主権を守る戦いを余儀なくされました>(日本語)と記述している。

ところが、パぺは次のように書く。


ユダヤ人指導部は、公的には最後の審判のシナリオを描いたり、人々に「第二のホロコースト」がいまにも起こると警告したりした。しかし、私的な場でそうした言辞を使うことは決してなかった。......パレスチナ側の軍備が貧弱で、戦闘経験や訓練が乏しく、いかなる戦争を遂行する能力もほとんどないと情報を得ていた。シオニスト指導部は、自分たちが軍事的に優勢で、野心的な計画をほぼ実現できると確信していた。

パぺが書く「野心的な計画」というのは、ユダヤ人指導部が立案した「ダレット計画」と呼ばれるものである。「1948年3月10日に決定され、その後数カ月にわたって組織的に実行された」とする。

「すべてが終わったとき、パレスチナにもとから住んでいた人の半数以上、約80万人が追放され、531の村が破壊され、11の都市部が無人にされた」。パぺはこのことについて、「今日の国際法では人道に対する罪とみなされる民族浄化作戦だったのは明らかだ」と書いている。

ダレット計画を主導したイスラエル初代首相のベングリオンは計画が意図するものについて、1947年12月に次のように語ったという証言を示している。
 


ユダヤ人国家に割り当てられた領土では現在、非ユダヤ人が40%いる。ユダヤ国家にとって、この構成は安定した基盤にはならない。......少なくともユダヤ人が80%を占めなければ、存続可能な独立国家とはいえない。

パぺはまずパレスチナ人に対する「民族浄化」計画はどのように立案され、決定されたかを追い、その後、戦争の中でどのように実施されたかを、パレスチナの都市や村でのイスラエル軍による破壊、虐殺、追放の事例をあげて詳細に記述している。

70年前「兄を銃殺された」と難民キャンプの老人が語った

パぺは自らイスラエル人でありながら、自国の戦争犯罪を告発することについて「プロローグ」でこう書いている。


私は告発する、しかし私も本書で非難される社会の一員である。私は自分に責任があると感じるし、物語の一部であるとも考える。......もしわれわれがパレスチナ人にとってもイスラエル人にとってもより良い未来を作りたいのであれば、痛みのともなうこうした過去への旅は、前に進むための唯一の方法であると、この社会に暮らす人々と同様に私も確信している。

イスラエルのユダヤ人研究者が1948年のイスラエル軍によるパレスチナ人の村での虐殺や追放を実証的に取り上げた仕事は、本書が初めてではない。

プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

10月ショッピングセンター売上高は前年比6.3%増

ワールド

NASA、ボーイング宇宙船計画縮小 不具合で

ビジネス

中国のビットコイン採掘が復活、世界シェアは第3位

ワールド

米政権、AP通信に対する取材規制の正当性主張 控訴
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 8
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story