コラム

8歳少女が抗争の犠牲に... パレスチナ難民キャンプの今

2017年07月01日(土)10時35分

シャティーラ難民キャンプでの家族間の抗争で焼き討ちされたカフェ 撮影:川上泰徳

<ラマダン後、取材していたレバノン・ベイルートのパレスチナ難民キャンプで銃撃戦が起こった。なぜ難民キャンプの中で無法集団がのさばっているのか>

私は6月半ばから、レバノンのベイルート南郊にあるパレスチナ難民キャンプ「シャティーラ」に通って取材をしている。6月下旬まではラマダン(断食月)で人々は日の出から午後7時過ぎの日没まで飲食を断つ。インタビューは空腹感が増す午後の遅い時間を避けると、午前中か午後の早い時間にするしかない。

しかし、人々は夜遅くまで起きていて、日の出前に食事をとって寝る。朝のスタートも遅い。ラマダンの間は昼間にインタビューをするのはきわめて効率が悪い。

ラマダンが6月24日で終わり、27日まで3日間の「イード・アルフィトル(断食明け大祭)」となった。休みが終わったら取材をもっと効率的にできると思った矢先に、難民キャンプで事件が起こった。

大祭の最終日の27日夕、シャティーラキャンプで激しい銃撃戦があり、3人が死んだ。うち2人はキャンプで抗争するオッカルとバドランという2つのパレスチナ人家族の人間で、3人目は銃撃に巻き込まれた8歳の少女だった。

銃撃戦は午後7時からキャンプの南側の通りで始まって、オッカル家の長男と、バドラン家の父親が死んだ。一度収まったが、午後9時に再燃した。地元紙の報道では抗争で携帯型のロケット弾が使われたとされる。カフェが黒こげになっていたのはそのためと見られる。

私は翌28日の朝に銃撃戦のことは知らないで、予定していた難民のインタビューをするためにシャティーラキャンプに入った。キャンプ内にある政治組織の事務所の前ではパレスチナ人が自動小銃を持って警戒にあたっていた。

キャンプにいる知り合いから前夜の激しい銃撃戦について聞いた。「昨日はシャティーラの住民は誰も寝ていない」と語った。訪れる予定だったNGOの事務所はすべて鍵がかかっていた。

衝突があった通りに行った。パレスチナ人が自動小銃を構えて治安維持にあたっていた。

通り沿いに真っ黒に焼け焦げた建物があった。抗争によって殺害されたバドラン家が所有するカフェだ。焼き討ちされたという。私が写真を撮っていると、私服の男が「お前はどこのメディアだ」と鋭く声をかけてきた。

私を案内していたパレスチナ人が「この男は日本人だ。●●の取材に来ている」とパレスチナの政治組織ファタハに近いNGOの名前を言ったところ、私服の男は引き下がった。レバノンのテレビ局も取材に来ていたが、あたりはぴりぴりとした緊張に包まれていた。

オッカル家とバドラン家はシャティーラキャンプでも人数が多い大家族である。オッカル家の長男は右肩にびっしり入れ墨をいれている写真がインターネットで出回っており、レバノンの地元紙によるとレバノンの警察から麻薬や武器の売買で指名手配を受けていたという。

両家族は最近まで協力関係にあったが、いきなり抗争が始まったようだ。数日前にバドラン家によってオッカル家の次男が足を傷つけられ、今回はその報復だったという。

プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、動向次第で利下げや利上げに踏み切る=オース

ビジネス

ユーロ圏の成長・インフレリスク、依然大きいが均衡=

ビジネス

アングル:日銀、追加利上げへ慎重に時機探る 為替次

ワールド

トランプ大統領、ベネズエラとの戦争否定せず NBC
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story