コラム

シリア内戦で民間人を殺している「空爆」の非人道性

2016年10月14日(金)18時55分

 私はSNHRの数字で状況の推移を見ることが多い。それはSNHRが民間人の犠牲の集計に力を入れていることと、リポートの中で犠牲者の名前、年齢、現場の写真、現地の人々の声などが紹介され、集計の元になった現場の情報を開示しているためである。

 上に紹介したSNHRの9月の民間人の犠牲の数字は、内戦開始以来、各派によって多少の増減はあるものの、傾向は変わらない。特に政権軍と、政権を支援するロシア軍が、民間人犠牲者の8割以上というのは変わらず、世界的には諸悪の根源のように言われているISが民間人死者の10%前後というのもいつものことである。シリア内戦で空軍力を持っているのは国内で政権軍だけであり、住宅地への無差別空爆や巨大爆弾の投下が最大の市民の犠牲を出している。ロシア軍は政権支援の立場から、一緒になって反体制地域を空爆している。

「戦争犯罪として国際的な法廷で裁かれるべき」

 ロシアは9月中旬にあった1週間のシリア停戦を米国と合意したことから、シリア和平に熱心なように受け止められているかもしれない。しかし、昨年9月末に始まった反体制地域へのロシア軍の空爆を見れば、その非道さこそが、シリア内戦を悪化させている元凶の一つというしかない。

 今年10月初め、過去1年間のロシアの空爆について、先に挙げたシリアの人権団体のSNHR、SOHRの両組織が集計を発表した。SOHRの発表によると、ロシア軍の空爆で計9364人が死亡し、その内訳は民間人が3804人(うち子供が906人、女性561人)▽IS戦士が2746人▽その他反体制戦士2814人――という結果である。SNHRの数字は、民間人の死者計3264人で、子供911人、女性619人という結果である。

 両組織とも、民間人の死者が3000人を上回り、想像を超える無差別空爆となっている。SOHRの集計では、ロシア軍による民間人の死者が、IS戦士の死者よりも多いのは驚きである。ロシア軍がアサド政権とともに反体制地域に懲罰的な無差別攻撃を加えていると考えるしかない。

 SNRHのリポートは27ページにわたって被害の詳細を出している。それによると、民間施設への攻撃417件▽クラスター爆弾の使用147件▽焼夷弾の使用84件▽救急隊や消防隊への攻撃、死者は救急隊員32人、消防隊員11人▽報道関係者への攻撃、死者12人――などとしており、「戦争犯罪として国際的な法廷で裁かれるべきである」と勧告している。

【参考記事】アレッポに蘇るチェチェンの悲劇
【参考記事】オバマが見捨てたアレッポでロシアが焦土作戦

 10月初めにフランスとスペインは、ロシア軍によるアレッポ上空の軍用機飛行および空爆の停止を求める決議案を国連安全保障理事会に提出したが、ロシアは拒否権を行使した。フランスや米国は、反体制地域に対するロシア軍やアサド政権軍の空爆を国際司法裁判所などに提訴する可能性も示唆している。

 やっと悲惨な空爆に関心を向ける動きが出たようにも見えるが、空爆の非人道性への関心というよりも、米欧とロシアの政治的な確執の色合いを強く帯びている。ちなみに、米軍が主導し、フランス軍も積極的に参加する有志連合のIS空爆は、イラク側で2014年8月から、シリア側では9月から始まったが、SNHRの集計によると、誤爆や巻き添えによって、これまでに約600人の民間人の死者が出ている。ロシア軍空爆による3000人を超える民間人の死者は許せないが、有志連合による600人の民間人の巻き添えはやむを得ないという議論は成り立たない。

 政権軍であれ、ロシア軍であれ、さらに有志連合であれ、民間人を巻き添えにする空爆に対する認識の甘さが世界に蔓延している。空爆で民間人が殺戮されることの重大性が軽視されている。

プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

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