最新記事

シリア内戦

アレッポに蘇るチェチェンの悲劇

2016年10月14日(金)11時00分
マーク・ガレオッティ(ニューヨーク大学教授)

Antoine Gyori-Sygma/GETTY IMAGES

<反政府派の拠点を空爆で破壊するロシアは、第2次チェチェン紛争で証明した「残虐性の価値」を再びフル活用している>(写真はロシアの攻撃でずたずたにされたチェチェンのグロズヌイ〔99年〕)

 街は爆撃で瓦礫の山となり、人々は逃げ、隠れ、廃墟の中で死んでいく。世界が恐怖のあまり傍観しているうちに。

 ロシアの戦闘機が爆弾を落とし、ロシアの銃や発射装置から砲弾やロケットが火を噴く。これがシリアのアレッポの現状だ。少し前まで、チェチェン共和国の首都グロズヌイも同じだった。

 ロシアの対シリア軍事戦略を理解するには、ウラジーミル・プーチン大統領が初めてロシアの最高司令官として戦った、99~09年の第2次チェチェン紛争を分析するのが賢明だろう。両者はまったく異なる戦いだが、プーチンが反乱勢力を相手にしたときに重視する点は共通している。残虐性の価値だ。

 ロシアは第2次チェチェン紛争によって、残虐さを見せつけることは戦略的に価値があると証明した。グロズヌイは今のアレッポのように、大砲や空爆、核兵器に次ぐ破壊力を持つといわれる自走ロケット砲TOS−1「ブラチーノ」でずたずたにされた。

【参考記事】「ホワイト・ヘルメット」を無視するノーベル平和賞の大罪

 何千人もが死に、何万人もが家をなくしたグロズヌイを、国連は「地球上で最も破壊された町」と表現した。あるロシア人将校は昨年、グロズヌイの戦いについて、「戦争はすべて恐ろしいが、最も恐ろしい戦争にすることが戦術になる場合もある」と語った。ちなみにロシア語でグロズヌイは「恐ろしい」という意味だ。

 14年にほぼ無血でクリミア半島を併合したときのように、ロシアに残忍さが見られなかった例もある。だが領土奪取だけでなく、抵抗は無駄だと反乱勢力に分からせることが目的であれば、戦略はまったく違ってくる。

 今回はプーチンが全面的に戦いの指揮を執っているのではなく、シリアのバシャル・アサド大統領やイランも重要な役割を果たしている。それでも彼らの意見は一致しているようだ。自分たちの望む条件でシリア和平を結ぶには、圧倒的な勝利と攻撃力を見せなくてはならない、と。その不幸な例がアレッポだ。

血みどろの勝利の教訓

 ロシア政府とシリア政府は、国際社会の怒りと失望に直面している。さらなる経済制裁が議論されているし、国連安全保障理事会の先月の緊急会合ではサマンサ・パワー米国連大使が「ロシアの行為はテロ対策ではない。蛮行だ」と指摘した。

 だがロシアは証拠を突き付けられてもそれを否定した。チェチェン紛争時、ロシアのイーゴリ・イワノフ外相は、爆撃された家や病院の写真は「ロシアと友好国の関係を悪化させる」ためのでっち上げだと述べた。今回のシリアでもロシアのビタリー・チュルキン国連大使は同様の物言いをし、空爆などに関する大量の証拠をはねつけた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

25・26年度の成長率見通し下方修正、通商政策の不

ビジネス

午前のドルは143円半ばに上昇、日銀が金融政策の現

ワールド

米地裁、法廷侮辱罪でアップルの捜査要請 決済巡る命

ビジネス

三井物産、26年3月期は14%減益見込む 市場予想
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 3
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中