コラム

金沢の「尹奉吉記念館」問題を考える

2025年04月16日(水)17時57分

地元の努力が無になるなら本末転倒

今回問題となっている尹の「記念館」設置運動は、必ずしもこれらの人々の活動の延長線上にはない。中心となっているのは、韓国国営放送KBSでプロデューサーを務め、現在はユーチューバーとして活躍する人物で、現地の在日コリアンや市民団体と連携はない(この人物は、尹の記念館や追悼館ではなく日韓交流の歴史を紹介する施設だと日本メディアに説明している)。

「記念館」の設置が予定されているのも金沢市内ではあるが尹との縁のない場所で、地域住民は困惑している。大韓民国居留民団(民団)も、「地域の理解を得ることなく賛同できない」と反対声明まで出している。右翼運動家と目される人物の軽自動車が民団の建物に突っ込むなど、金沢の人々に対する抗議活動が激化していることが、その背景にはある。


「南部の正義」に関する記念碑や施設が異なる価値観の北部で造れないように、歴史の顕彰活動では常に地元の人々の理解が不可欠だ。本国からの「落下傘」的な活動で現地の人々の努力が無に帰するなら、本末転倒も甚だしいと言わざるを得ない。

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プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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