コラム

金沢の「尹奉吉記念館」問題を考える

2025年04月16日(水)17時57分

朝鮮の独立運動家である尹は1932年、上海の虹口公園で起こった「上海天長節爆弾事件」の実行者である。この事件で上海派遣軍司令官の白川義則と上海日本人居留民団行政委員会会長の河端貞次が死亡し、民間人を含む多くの犠牲者が出た。韓国教育省傘下の研究機関「東北アジア歴史財団」の理事長を務めた金度亨(キム・ドヒョン)は、尹がこの事件を引き起こした「根本的理由」を「中国と日本が戦争を起こすような条件をつくるため」だったと記した。自らの政治的目的を達成するために物理的な暴力を駆使して人々を殺傷した、という意味では典型的な「テロリズム」というべき事件である。


本国からの「落下傘」的な活動

自らが奉じる正義のためにどこまで物理的な暴力の行使が認められるべきか、は世界史における永遠の課題であり、今後も議論の尽きない問題である。その場で逮捕された尹は、その後軍法会議により死刑を宣告され、上海に出兵していた金沢の第9師団の敷地内で処刑、市内に「暗葬」された。第2次大戦後、現地の在日コリアンにより発掘された遺体はソウルで改めて埋葬され、慰安婦問題激化により歴史認識問題に対する関心が高まった92年、金沢でも在日コリアンと市民運動家らの手により「尹奉吉義士殉国紀念碑」や「暗葬之跡碑」が設置された。金沢ではその後も、有志による尹への顕彰・慰霊活動が行われてきた。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

良品計画、今期純利益予想を上方修正 市場予想上回る

ビジネス

TSMC、第1四半期35%増収 AI需要追い風に市

ビジネス

ブラジルの強制労働リストからBYD除外へ、裁判所が

ワールド

韓国・ポーランドが13日に首脳会談、防衛協力拡大な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 3
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡散──深まる謎
  • 4
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 5
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 6
    戸建てシフトで激変する住宅市場
  • 7
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 8
    高学力の男女で見ても、日本の男女の年収格差は世界…
  • 9
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 10
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 4
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 7
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 8
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 9
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 10
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story