コラム

「竜頭蛇尾」な戒厳令と、罪を免れたいユン大統領のジレンマ

2025年02月19日(水)11時23分
韓国

ソウルの憲法裁判所近くで尹の釈放を訴える支持者(2月4日) CHRIS JUNGーNURPHOTO/GETTY IMAGES

<尹錫悦・韓国大統領による戒厳令宣布から2カ月。当初こそ勇ましかった尹だが、最近は言い訳じみた苦しい弁明に終始している。世界を揺るがせたクーデター騒動が「竜頭蛇尾」に終わった理由>

「私は北朝鮮の共産主義勢力の脅威から韓国を守り、国民の自由と幸福を略奪している悪徳な従北反国家勢力を一挙に粛清し、自由憲法秩序を守るために非常戒厳を宣言する。私はこれまで悪事を働いた亡国の元凶である反国家勢力を必ず殲滅する」

この勇ましい演説とともに、昨年12月3日に尹錫悦(ユン・ソンニョル)の戒厳令は宣布された。以前から、韓国では進歩派の伸長と保守派の退潮を北朝鮮の工作の結果だとする一部保守派の主張があり、彼らは「ついに大統領が自分たちの見方を受け入れた」と、熱狂した。


しかしその後、尹の主張は次第に変化していった。12月12日の演説では「今回の非常措置は、大韓民国の憲政秩序と憲法を壊そうとするのではなく、国民に亡国の危機状況をお知らせし、憲政秩序と国憲を守り回復するためのもの」だったとし、戒厳令は社会に警告を促すためのものにすぎなかった、と自らの主張を大幅に後退させた。

1月に始まった憲法裁判所での弾劾審判で、「(国会)議員を引きずり出せ」と指示されたと証言する特殊戦部隊司令官や情報機関関係者の証言に対して、尹や彼と共に戒厳令を主導した前国防部長官の金龍顕(キム・ヨンヒョン)が指示したのは、国会に投入された「(軍の)要員」の撤収だった、とする苦しい弁明をした。進んで1月23日に尹は、今回の事態を「失敗した戒厳ではない」「予定より早く終了した」だけとも主張した。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:日銀利上げ容認へ傾いた政権、背景に高市首

ビジネス

「中国のエヌビディア」が上海上場、初値は公開価格の

ワールド

米司法長官、「過激派グループ」の捜査強化を法執行機

ワールド

トランプ政権、入国制限を30カ国以上に拡大へ=国土
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 9
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 10
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story