コラム

韓国はなぜ日本の入国制限に猛反発したのか

2020年03月11日(水)17時20分

だからこそ韓国では、官民双方の病院にて、新たなる感染症の流行に備えて以前から準備が整えられて来た。そしてその答えこそが、大量「検査」と入院による早期の積極的「医療措置」はその答えだったのだ。しかしながら結果から言えば、この措置は大きな誤算を生むことになった。誤算は検査の結果として判明した感染者の「数」と「地域の集中」にあった。つまり、この体制の下行われた大量「検査」の結果として発覚した感染者の数は韓国政府の当初の想定よりも遥かに多く、しかも大邱・慶尚北道という狭い地域に集中して出現した事がそれである。3月10日夜現在で、韓国全体での感染者は7513名、実にそのうち75.4%に当たる5663名が大邱市に集中、残る14.9%も大邱市を取り囲む慶尚北道で発見される事になっている。因みに大邱市の人口が約250万人、慶尚北道が約270万人。流行のはじまりであった中国の武漢市、湖北省が各々、公式発表によれば感染者が4万9965人、6万7760人、人口が約1080万人と約5900万人であるから、「検査」の結果見つかった「人口当たりの見かけ上の患者数」は大邱市が既に湖北省の2倍、武漢市と比べても1/2に達している事がわかる。

医療崩壊でも支持率は上昇

当然の事ながら、僅か1カ月足らずの間に、突如として5000人を超える感染者が発生し、彼らのその全てが入院を求めて医療機関に殺到すれば、一地方都市においてこれを処理できるはずが無い。結果、大邱市を中心とする地域の医療機関は能力の限界を早々と超え、本来なら医療措置を受けるべき人々が適切な措置を受けられない「医療崩壊」の状況が生まれている。だからこそ、結局、韓国政府は「医療措置」に関わる、感染者の全員入院という当初の方針の転換を余儀なくされ、軽症者への自宅待機を呼びかける事となっている。急増する韓国の感染者数拡大に対する各国の警戒も高まっており、既に我が国を含む100以上の国や地域が韓国からの入国を制限する事になっている。

とはいえその事は、韓国政府が当初の「検査」と「医療措置」の積極的な姿勢を全面的に変えようとしている事を意味しない。何故なら、混乱する医療現場の状況とは対照的に、韓国政府、より正確には新型コロナ対策の指揮を取る疾病管理本部への国民の支持は依然、極めて高い水準に留まっているからだ。3月4日に明らかにされた韓国リサーチの調査結果によれば、疾病管理本部を「信頼する」と答えた人は2月第4週で81.1%。この数字は事態が深刻ではなかった2月の第1週の74.8%と比べてもむしろ大きく上昇することになっている。政府全体の対策への支持も57.0%と過半数を超えており、韓国の人々が積極的な「検査」と「医療措置」という文在寅政権の方針を支持していることがわかる。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、SCO加盟国に共同債券の発行を提案

ビジネス

英住宅ローン承認件数、7月は予想上回る 1月以来最

ワールド

ウクライナ元国会議長殺害、ロシアが関与=警察長官

ワールド

アフガン東部でM6地震、死者800人超・2800人
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 2
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマンスも変える「頸部トレーニング」の真実とは?
  • 3
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シャロン・ストーンの過激衣装にネット衝撃
  • 4
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 5
    映画『K-POPガールズ! デーモン・ハンターズ』が世…
  • 6
    「体を動かすと頭が冴える」は気のせいじゃなかった⋯…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    就寝中に体の上を這い回る「危険生物」に気付いた女…
  • 9
    シャーロット王女とルイ王子の「きょうだい愛」の瞬…
  • 10
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあ…
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 4
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 8
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 9
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 10
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story