コラム

韓国はなぜ日本の入国制限に猛反発したのか

2020年03月11日(水)17時20分

さて、この様に同じく新型コロナウイルスの流行拡大の脅威に直面する日韓両国であるが、その対処の方法は大きく異なっている。違いのポイントは大きく二つあり、それは感染の有無の「検査」と、検査の結果感染が確認された患者の「医療措置」の在り方である。報道されている様に、この点で日本政府は、「検査」と「医療措置」の双方の拡大に消極的な姿勢を取っている、と言われている。背景にあるのは、大量の人々が「検査」と「医療措置」を求めて医療機関に殺到する事で、その能力を超える事態、つまり「医療崩壊」がもたらされる事への懸念である。同時に、感染者が医療機関に殺到する事で、逆に病院において感染が広がる可能性があり、PCR検査では一定の確率でしか感染者を確定することができない事も指摘されている。だからこそ、治療方法が存在しない現状では、感染の疑義がある人を含めて、自宅待機を有効に利用するのが賢明だ、というのがこの方針を支える理屈になっている。

戦略としての大量検査

これに対して、韓国政府は日本政府とは対照的な施策を取っている。即ち、韓国政府が進めているのは積極的に「検査」を行い、集団感染をできるだけ早期に発見してその芽を摘むと同時に、患者を早期に社会から隔離して「医療措置」を進める事であった。この為に韓国政府は当初、「検査」により感染が明らかになった人を可能な限り医療機関に入院させる方向で「医療措置」を行い、これを積極的に進める事になった。

背景にあったのは、韓国政府の「準備」と「自信」であった。実際、韓国においては2月末には一日当たりの検査者数が1万人を突破するなど、膨大な数の検査が毎日行われており、この点が「検査難民」の存在が指摘される我が国との大きな違いとなっている。そして当然の事ながら、この様な大規模「検査」を可能とする韓国の状況は、今回のウイルス流行後、直ちに作られた訳ではない。韓国では2015年にMERS(中東呼吸器症候群)の流行が起こっており、186人の感染者と38人の死亡者を出す事となっており、この時の教訓が今回の新型ウイルスへの対処の原型になっている。とりわけこの時には、ウイルスが大型病院での院内感染を通じて広がり、多くの死者を出した事への批判は強く、時の朴槿恵政権には強い批判が向けられることになっている。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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