コラム

輸出規制への「期待」に垣間見る日韓関係の「現住所」

2019年07月08日(月)15時15分
輸出規制への「期待」に垣間見る日韓関係の「現住所」

2018年10月にベルギーで行われた第12回ASEM首脳会合に出席した安倍首相と文在寅大統領 Francois Lenoir-REUTERS

<日本では韓国への輸出規制が与える効果に対する「期待」が広がっている。しかし、その「期待」の裏にあるのは20年以上前の韓国のイメージであり、現実はこの間に大きく変化してしまっている。そのいい加減さが意味するのは、韓国のみならず、日本もまた日韓関係の改善を放棄しつつある、と言う不都合な現実だ>

7月1日、経済産業省は韓国に対する新たな「輸出規制」について発表した。この措置を受けて日韓両国ではこの措置の影響と妥当性について激しい議論が進められている。

今回の措置をどう考えるべきか、については既に幾つかの別稿で議論しており、同じことを繰り返すのは止めておこう。取り上げたいのは、この措置とそれに対する日本国内の反応から垣間見える日韓関係の「現住所」だ。

注目すべきは、この措置を後押しする日本世論の強硬姿勢である。例えば毎日新聞は、今回の措置の背景には「韓国に厳しく臨むことで参院選の追い風になる」とする政府の計算がある、と報じている。多くの日本メディアも同様の内容を報じており、事実、一部の批判にも拘らず、政府・与党幹部はこの措置について積極的に発信する事となっている。

言うまでもなく背景にあるのは、近年日本国内において高まる韓国への反感だ。ナショナリスティックな感情を政治家が利用すること自体は、ありふれた現象であり、良し悪しはさておき、さほど珍しい現象ではない。とはいえ、ここで一つの疑問が生じる事になる。何故に韓国への反感の高まりは、人々によるこの措置への支持へと繋がるのだろうか。

経済制裁は反感を強めるだけ

最初に考えなければならないのは、そもそも経済的な圧力だけで、人々が抱く不満の原因である、歴史認識等を巡る韓国側の姿勢を変える事ができるのか、と言う事である。そもそも経済制裁だけで他国の何らかの政策を変えることは難しいことは、大学の授業でも教えられる、国際政治学の常識に属する知識である。

ナポレオン戦争時のフランスのイギリスに対する大陸封鎖をはじめとして、国際社会ではこれまで無数の経済制裁が行われている。しかし、ナポレオンのそれを含めて、歴史上の殆どの経済制裁は目的を実現し得ていない。理由は簡単だ。制裁はこれを向けられた国家の世論感情を硬化させ、より強硬な方向へと一致させる効果をもっているからである。

その典型的な例の一つとしては、他ならぬ日本自身の太平洋戦争直前の経験を上げることができるだろう。日本軍のフランス領インドシナ進駐により開始された、アメリカをはじめとする日本への経済封鎖は、戦略物資である石油の禁輸を伴うものであり、疑いなく日本経済に大きな打撃を与えるものであった。いわゆるABCD包囲網がそれである。しかし、日本は屈服するどころか反発を強め、結果的に太平洋戦争に至る事になっている。

<参考記事>日本の重要性を見失った韓国
<参考記事>もしも韓国が仮想敵国だったら?

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長、神戸新聞客員論説委員を兼任。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。著書に『日本の常識は通用しない 慰安婦合意反故「法より正義の国 韓国」』、『朝鮮半島をどう見るか』、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『徹底検証 韓国論の通説・俗説』(共著)など。

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