コラム

日本の重要性を見失った韓国

2019年03月07日(木)16時34分

北朝鮮との関係改善で精いっぱいの文在寅大統領(写真は、3.1独立運動100周年式典での演説、ソウル)

<レーダー照射、徴用工判決、天皇に謝罪要求と、相次ぐ事件にあり得ないような言い訳で日本人の感情を逆撫でする韓国側は平常心を失っているようにさえ見える>

2019年が明けてからも日韓関係は紛糾した事態が続いている。昨年末に勃発した「レーダー照射問題」は、韓国海軍がこれを否定したのみならず、新たに日本の哨戒機側の低空による「威嚇飛行」問題を提起した事により、新たな展開になっている。安全保障を巡る問題への影響を恐れる日本側がこの問題に関わる韓国側への批判をトーンダウンして以降も、韓国側は日本海のみならず、東シナ海においても、日本側哨戒機の「威嚇飛行」が続けられているとして問題提起を続けている。

韓国側が新たに日韓関係に関わる問題を提起し、両国間の関係を悪化させているのは外交分野においても同様だ。2月初頭には韓国側の三権の長の一人である文喜相国会議長が、米誌ブルームバーグのインタビューに対して、「戦犯の息子」である天皇が慰安婦問題において謝罪をすべき旨発言し、日本側の大きな反発を呼んだ事は記憶に新しい。続く2月15日にミュンヘンで行われた日韓外相会談では日本側の河野太郎外相が、いわゆる徴用工判決をめぐり、日韓請求権協定に基づく2国間協議に応じるよう韓国側に改めて督促したものの、康京和外相はこれに対して反応を示さなかった、と日本側メディアは報道している。

対応は行き当たりばったり?

この様な一連の韓国側の動きは、あたかも意図的に日本側を刺激する行動をとっている様な形に見え、日本政府は警戒を強めている。しかしながら、これらの韓国側の一連の行動には見落としてはならない共通点が存在する。

例えば「レーダー照射問題」について考えてみよう。この問題における韓国側の突然の哨戒機側の「威嚇飛行」の提起は、本来、「威嚇飛行が行われたから、韓国側は対応措置をやむを得ず取ったのだ」とする弁明の一環であった筈だ、と見るなら──その主張が事実に適っているかどうかとは全く別にして──ある種の論理的一貫性を見出せない事もない。しかしながら、韓国側がそもそもの火器管制レーダーの照射自身を否定した結果、「威嚇飛行」は、宙に浮き、全く別個のイシューへと転化する事となった。結果、韓国内では韓国側の「レーダー照射」ではなく、日本側の「威嚇飛行」こそが問題の核心だ、という議論になってしまっている。

矛盾しているかのように見える対応をしている間に、問題の核心が韓国側において入れ替わってしまったのは国会議長の発言においても同様だ。当初、スポークスマンを通じて、「戦犯の息子」という発言自体を否定した国会議長は、ブルームバークがインタビューの該当部分の録音を公開した後には、そもそも日本側が謝罪をするのは当然であり、自分は何も間違ったことを言っていない、として一転開き直る形になっている。ここでも問題はいつしか国会議長の発言の妥当性から、歴史認識問題に関わる日本の謝罪へと入れ替わってしまっている。ミュンヘンの日韓外相会談に関わる問題は、並行して日本側の河野外相から行われた国会議長の天皇謝罪発言に対して、韓国側の康外相がこの抗議を「存在しなかった」として否定するに至り、問題はいつしかいわゆる徴用工問題への対処を巡るものから、国会議長の発言に対する河野外相の抗議があったかなかったかに関わるものに変わってしまっている。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 5
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 8
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 9
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 10
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story