コラム

日本の重要性を見失った韓国

2019年03月07日(木)16時34分

一見すると、これらの韓国側の動きは単に支離滅裂で混乱している様に見える。人によっては日本側に非難されパニックに陥っているように考える人もいるかもしれない。しかし、共通している事が二つある。第一は、これらに出て来る韓国側の行動が、元々は「自らの側の言動によってはじまった問題」を「日本側に由来する問題」にすり替えてしまっている事である。つまり、韓国側による火器管制レーダーの照射問題は、いつしか日本側の「威嚇飛行」に関わる問題になり、国会議長が天皇に謝罪を求めた発言を巡る問題は、いつしか歴史認識問題における日本の謝罪の不足を非難するものになっている。康外相による河野外相の国会議長発言問題に関わる韓国側への抗議を否定する発言は、突き詰めれば「日本側が嘘を言っている」という主張に他ならない。

二つ目の共通点は、この様な韓国側の一連の「弁明」が、問題を惹起した「加害者」である当事者を、日本側の非難等に晒される「被害者」へと置き換える形で展開されている事である。つまり、韓国海軍は何も悪い事はしていないどころか、海上自衛隊により「威嚇飛行」を突き付けられる「被害者」なのであり、また国会議長は日本にあるべき謝罪を求めるという「正しい」言動を行ったにも拘わらず、日本政府から「理不尽」で「盗人猛々しい」抗議を突き付けられる「被害者」である。康外相もまた、河野外相から如何なる要請も受けていないのだから、発言をする必要はなく、逆に存在もしなかった発言を恰もあったかのように日本側に不当に非難される「被害者」として位置づけられている。最初から計算ずくだったかは疑問としても、彼らが何を目指し、どちらを向いてその仕事をしているかは明らかだ。

日本のことは眼中にない

その事が示す事は一つである。それは彼らが、彼等の言動に抗議する日本側に対して語りかけているのではなく、渦中に置かれた彼等の言動を見守る韓国国内の世論に対して語りかけているという事だ。つまり、彼らは何も日本側に非難されたからパニックになり、苦しい言い訳を連発しているのではない。そこには彼らなりの計算があり、そしてその計算は国内世論に向けられたものである。言い換えるなら、そこでは日本の反応は最初から重視されておらず、だからこそ彼等の言動は、抗議する日本側の怒りをなだめる方向へとは向かわない。

とはいえその事は、韓国国内の世論の支持を取り付ける事により、彼等が何かしらの政治的意図を成し遂げようとしている事を意味しない。日本側の威嚇飛行があろうとなかろうと、韓国海軍そのものの置かれた立場が変わる事はなく、天皇に関して国会議長がどんなに過激な発言をしてもそれにより政府や与党の支持率が上がる訳ではない。外交部長官が日本側外相の発言を否定する事により、韓国外交部の地位が上がる訳でもなければ、長官自身の政府内の発言権が増す訳ではない。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

オランダ政府、ネクスペリアへの管理措置を停止 対中

ワールド

ウクライナに大規模夜間攻撃、19人死亡・66人負傷

ワールド

ウクライナに大規模夜間攻撃、19人死亡・66人負傷

ワールド

中国、日本産水産物を事実上輸入停止か 高市首相発言
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 7
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 8
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 9
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story