コラム

もしも韓国が仮想敵国だったら?

2019年01月29日(火)17時00分

そして更に重要な事がある。それは中長期的な観点から、日本が韓国や日韓関係をどの様に位置付けていくか、という事である。この点において見落とされてはならないのは、韓国が一定以上の国力を有している事である。韓国の2017年現在でのGDPは世界12位。その規模はロシアとほぼ同じになっている。韓国の「大きさ」は軍事面ではより顕著になる。ストックホルム国際平和研究所が毎年公表しているデータによれば、現在の韓国の軍事費は世界第10位。その規模はブラジルやオーストラリア、更にはカナダをも上回っている。上位の国家と比べてもその金額は、8位の日本の86%、9位のドイツの88%に達している。韓国の軍事費は毎年日本を上回るペースで増加しており、このペースが進めば、近い将来の軍事費面における日韓逆転も視野に入ってくる。

そしてこの事は日本の安全保障に大きな意味を持っている。例えば、仮に我が国が、韓国を仮想敵国の一つとして想定するなら、韓国海軍主力である第一艦隊および第七機動戦団に備える為に、海上自衛隊は一定以上の兵力を日本海に配置しなければならなくなる。当然その事は、結果として例えば東シナ海における中国や、オホーツク海におけるロシアへの備えに影響を与える。韓国そのものの脅威以上に、韓国への備えが割かれる事で、日本を巡る安全保障環境が大きく変化する事が重要なのだ。

だからこそ考えなければならないのは、変わりつつある日韓関係を前提に我が国が韓国を含めて周辺諸国との関係をどう再構築していくかである。文在寅政権下の状況を見ても明らかな様に、「大きくなった韓国」をして彼らの考え方を変えさせる事は難しい。継続する中国の経済的軍事的拡大、そして予想外のペースで進む米朝の対話。変わり行く北東アジアの国際関係の中で日韓関係を改めて位置づけ直す事が必要になっている。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

NATO事務総長、国防費拡大に新提案 トランプ氏要

ワールド

ウクライナ議会、8日に鉱物資源協定批准の採決と議員

ワールド

カナダ首相、トランプ氏と6日会談 ワシントンで

ビジネス

FRB利下げ再開は7月、堅調な雇用統計受け市場予測
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story