コラム

政治改革を「いかにもそれやらなそう」な政党がやるとどうなるか

2025年02月15日(土)20時00分
NHS改革を宣言するイギリスのキア・スターマー首相

NHS改革を実行し待ち時間を短縮すると宣言するキア・スターマー英首相 LEON NEAL―REUTERS

<イギリスでは「労働者の味方」労働党新政権が、硬直した医療保険制度にメスを入れ、富裕層支援にも見える政策を進めようとしている>

政治的な転換が起こる時、よもやそれを実施するとは思われていなかった政党が実現させたからこそ可能になった、と言われることがある。

よりによって米共和党の大統領であるニクソンが、共産主義の中国との国交正常化を実現したのはその一例だ。共和党よりも左寄りな民主党は、共産主義の暴君である毛沢東となれ合っていると思われるのを恐れていただろう。

アメリカで奴隷制度を廃止したのが共和党大統領のリンカーンだったことが驚きをもって語られることも多いが、その時代に詳しい歴史家なら、実際には民主党が20世紀に入ってかなりたってからも南部で人種隔離を支持していた政党だということを知っている。

反対に、この変化を成し遂げるのはこの政党だろうと期待されている政党ほど、「原点に戻った」とみられるのを恐れてそれを避ける。

そんなわけで、「自由市場推進派」の英保守党は、イギリスの社会主義的な医療保険制度であるNHSの解体を狙っているんだろう、と非難されることを恐れて、NHSの改革には手を出さなかった。

NHSの擁護者だからこそ大胆に改革

市場インセンティブを導入したり、業務を合理化したり(NHSは官僚的で合理性に欠けることで悪名高い)などとしようものなら、保守党はNHS制度が嫌いだから「切り売り民営化」をするつもりだ、などと怒りの声を浴びるだろう。だから保守党が政権を握っていた14年の間、NHS改革はほとんど行われなかった。

実際、保守党はかなり昔にNHSの存在を受け入れたが、それは初期のうちに、NHS廃止を訴えれば選挙で自殺行為になるだけだということを見て取ったからだ。それどころか保守党は、NHS支持の立場を声高に叫んでいる。

ところが今、第2次大戦後にNHSを創設した張本人であり、NHSの擁護者だと広く見られているからこそ、面白いほど自由に行動できているのが、現在政権を握る労働党だ。NHSは不合理だらけで、労働党は改革の必要性を公然と訴えているので、僕はこれから何が起こるのか興味深く見守るつもりだ。その変化とは、より多くの資金提供を約束するだけではなく、根本的に制度を考え直すことにつながると彼らは主張している。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米国防総省から記者退去、取材規制に署名拒否

ワールド

トランプ米政権、日本のロシア産エネ輸入停止を期待=

ワールド

加藤財務相、米財務長官と会談 為替に関する共同声明

ビジネス

アップル、インドに税法改正働きかけ 成長阻害リスク
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇跡の成長をもたらしたフレキシキュリティーとは
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 10
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story