コラム

政治改革を「いかにもそれやらなそう」な政党がやるとどうなるか

2025年02月15日(土)20時00分

例えば、肥満関連の病気や、リスクの高い人をより的確にスクリーニングできていれば早期に発見できたであろう癌などにおいて、医者にかかるほど重くなるのを待つよりも、初期の段階で予防に取り組む方がはるかに費用対効果は高い、などといった発想の転換だ。

同様に、労働党はヒースロー空港に第3滑走路を建設することを支持している。これは何年も議論されてきたが、ネットゼロ目標や(騒音や大気汚染といった)環境への影響を懸念して、保守党は尻込みしていた。

でも今、左派で、より環境に熱心だとされている政党が、航空拡大によってより大胆な経済成長を図るという目標に力強く取り組んでいる。

一方、こちらはもっと小規模ながら意義ある例なのだが、労働党はオックスフォード大学とケンブリッジ大学の「成長回廊」の創設についても話を進めている。新たなインフラを支援し、権威ある2つの大学・研究ハブを結ぶ鉄道路線を建設することでイギリスのテックバレーを作り上げられるのではないかという構想だ。

これが保守党だったら、イギリスで最も裕福な地域の1つにさらにカネを落とすように見られるんじゃないか(「まるで裕福な南東部地域に政府の支援が必要だとでも言うように!」)、そして保守党の地盤だからこそバラマキをしているように思われるんじゃないか、と警戒して尻込みしていたことだろう。

その上、保守党はみんな上流オックスブリッジ(オックスフォード大学とケンブリッジ大学)の卒業生だと誰もが思っているので、税金を母校に流用していると人々から冷笑されるに違いない。

だから皮肉にも、保守党は政権時代に「レベリングアップ」(貧しい地域の経済改善)や「北部パワーハウス構想」(マンチェスターやリバプール、リーズ、シェフィールドなどイングランド北部都市群をロンドン一極支配に匹敵できるよう底上げする試み)を推進した。

ところが今や、財相を務めるのは労働党のレイチェル・リーブスで、より力強い経済成長を達成するためには勝者を後押しするべきだと事実上主張しているのだ。

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プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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