コラム

対戦国の国歌にブーイング......僕がイングランド人を心底恥じる瞬間

2024年07月05日(金)16時50分
ユーロ2024でイングランドと対戦したスロバキア

ユーロ2024でイングランドと対戦したスロバキアの国歌斉唱(6月30日) BERND THISSEN/DPA VIA REUTERS CONNECT

<ユーロ2024でも見られるこの光景は正当化しようのない絶望的な行為だ>

ほとんどの人は、自分の母国について何かしら気に入らないことがあるだろう。一般的には人々は本能的に、たとえ建前上だったとしても、自分の国を支持するようになっているものだ。

自分の国のよろしくない事実を知った時は、「ああ、でも他の国でもよく起こることだよね」とか「確かにそうだけど、どこどこの国ではもっとひどい状況だよ」とか言うかもしれない。あるいは、欠点を補って余りあるような自国の人々の美点を持ち出して、話をそらしたりする。

でも時には単純に、「うん、これはひどい。イギリス人(フランス人/日本人/......)でいるのが嫌になるよ。こんなことはやめるべきだ」と言った方がいい場合もある。僕の場合は、イングランドのサッカーファンが対戦チームの国歌にブーイングする様子を見てそう感じる。

こんなことを正当化する理由は何も見いだせない。おそらくこれをやらかす人の中には、こうすることで対戦チームに過酷な環境だと感じさせ、自国チームを「全力で応援する」ことになると考えている人もいるかもしれない。でも大多数のファンは、スタジアムで対戦国に失礼な態度を示し、その国のファンを侮辱するような行為を、「お楽しみの1つ」と考えているふしがあるのではないかと思う。

差別撤廃は進んできたが

もちろん今こんなことを書いているのは、ユーロ2024の真っ最中だから。イングランドFA(サッカー協会)、イギリス警察、その他の当局は、フーリガン根絶のためにしっかりとした働きをみせてきた。ちょっとしたトラブルはちらほら起こるが、1980年代とは比べものにならない(今では、有罪判決を受けたフーリガンは、大規模なトーナメントで会場での観戦を禁止され、開催中はパスポートを返上しなければならないことになっている)。人種差別および同性愛嫌悪に反対する長年の活動は、かなりうまく進んできた(単純に、これらは犯罪に当たるから、法律で徹底的に罰せられる)。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story