コラム

「一番マシ」な政党だったはずが...一党長期政権支配がついに終わる

2024年05月09日(木)19時22分
イギリス地方選で勝利した英労働党のキア・スターマー党首

5月2日に行われたイギリス地方選でも保守党を下し、勝利を喜ぶ労働党のキア・スターマー党首(中央) PHIL NOBLEーREUTERS

<イギリスでいま目にしているのは、長期の政権を保っていた英保守党が支持を失い、軽蔑され、確実に敗北に向かっていく過程>

1つの党による長期の政権支配が終わりを迎える過程を、僕はいま興味深く見守っている。僕の経験上、母国イギリスで知る限り、こうした機会は過去2回あったが、どちらも「見逃して」しまった。

英保守党は1979~1997年にわたり政権を握っていたが、その最後の数年、僕は日本で暮らしていた。労働党は13年にわたり政権の座にあったが、2010年についに下野し、それは僕がイギリスに帰国してからまだ1週間ほどの時期だった。

だから、かつては信頼を寄せていたり、あるいは少なくともひどい選択肢の中では一番マシだと思っていた政党を人々が軽蔑するようになる......というような手のひら返しの心境を、僕自身は経験することはなかった。そして、重要な転換点となるような出来事をメディアで見聞きしてはいても、手のひら返しに至るような経過をこの目で見守ることがなかった。

たった今、保守党は今年行われることが確実な次の総選挙で、敗北間違いなしとされている。分別のある人なら誰でも、保守党がまだ勝てる見込みがあるかどうかではなく、どのくらいの規模で敗れるだろうかと推定している。

伝統的に保守党優勢の地域では議席を守れるだろうか? あるいはまともな政党としての終焉を迎えるほど大規模に一掃されてしまうのか?(これは1993年のカナダ総選挙で進歩保守党に起こった出来事のようだ。進歩保守党は政権を何度も担当してきた2大政党の一角だったが、改選前の169議席のうち167議席を失うという惨敗を喫し、ミニ政党に転落してしまった。今回のイギリスでも同じ展開があるだろうかと話している人がいたので、僕はこの事実を初めて知った)。

立候補せず引退する議員が大量に

個人的に興味深く注目したのは、権力が「衰退する」1つの道のりだ。この3月に読んだ記事によると、保守党の議員63人が次回選挙に立候補しない予定で、これは現在の保守党国会議員の約5分の1に相当するという。だからそれは「経験流出」であり「頭脳流出」に当たるかもしれない。これで保守党が選挙で勝利するのはますます厳しくなるだろうし、選挙後の勢力回復はさらに難しくなるだろう。

保守党が再び国民の期待を集めるためには、「新世代」の人材が現れるのを待つ必要があるかもしれない。つまり、勝てる見込みもない選挙に立候補するチャンスをじっと見据えながら、輝かしくない役割をも率先して引き受けようとする若者たちだ。

このプロセスは10年以上かかる可能性があるが、トニー・ブレアとゴードン・ブラウンが時代遅れの「恐竜」と化していた労働党を復活させたのも、デービッド・キャメロンとジョージ・オズボーンが保守党体質を「解毒」させたのも、この手法だった。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story