コラム

自由と銃とアメリカ史──憲法発祥、マグナ・カルタの地で考えた「銃所有」の意味

2023年09月04日(月)17時55分

多くのイギリス人、それに日本人も、アメリカの銃社会の現状には愕然としているだろう。最新の「銃乱射事件」でなければほとんどニュースにもならないくらい、大量銃所持による暴力が日々続いている。僕は本能的に、自分の国は決してこんな状況になってほしくないと考える。でも銃を所有するアメリカ人がみんな「頭のおかしいヤツ」だと決めつけてかかることもしたくない。彼らの考え方には、あまり理解されていないが何かしらの論理があるのだ。

修正第2条は自己防衛の権利について述べているものではないので、「大量銃所有は事実、社会の安全を損なう」という主張は的を射ていない。狩猟目的での銃所有の議論も修正第2条とは関係ない。修正第2条は、武装した市民は自由社会の維持のために欠かせないものであるから、と述べている。奇妙な言い分かもしれないが、第一にこれは、アメリカの歴史から育て上げられた考え方だ。アメリカ人は、イギリスの植民地支配に武装蜂起することによって、民主主義を確立した。

 

国民の銃所有が政府に対するチェック機能を果たす?

次に、周知されるべきもっと大きな歴史的論理がある。スターリンの秘密警察は文字通り何千万もの市民を捕らえ、強制労働収容所送りにした。もしも秘密警察が家々を回った時に銃を持つ市民が待ち構えていたら、彼らの試みはもっとはるかに労力とリスクと時間がかかるものになっていただろう。

自由国家に暮らす人々は、自分たちの自由は「安泰」であって、先進国が今後、独裁体制に転落するリスクなどない、と考えがちだ。それに対して明確な事実を示そう。自由で民主主義的だったワイマール共和国は、歴史上最も嘆かわしい独裁政権であるナチスドイツに取って代わられた。

多くのアメリカ人は、政府とは本質的にいつでもより大きな力を求めるものであり、それゆえに市民の自由を食いものにすると考えているようだ。その考え方は僕にはむしろ原理主義者的に思えるのだが、そんな僕でも、政府はプロセスを「単純化」したがったり「安全を強化」したがったりして、そのためにしばしば法的権利が縮小されたり監視体制を強めたりすることはあるだろうとは思う。

そんなわけで自由が撤廃されることはないが、損なわれていくことはある。僕の友人は、修正第2条は政府に対する「チェック」の役割を果たすと主張している。数多くのアメリカ人が反乱を起こす力を有しているのだから、政府もやりすぎな方向に行こうとはしない、というわけだ。そのため、実際のところ反乱の必要性はなくなる。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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