コラム

「銃規制の強化は望まない」民主党支持者の変化に見るアメリカの現実

2022年06月07日(火)16時00分

バージニア州マナッサスの銃砲店に陳列されるライフル(3月17日) YASIN OZTURKーANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES

<拳銃所持の禁止を求める声は70年で約4割も減っている>

ここアメリカには、殺戮、戦闘の場と化した学校や日常の場所があまりにも多い──バイデン米大統領は6月2日にホワイトハウスでそう演説した。

これに先立ち、バイデンは5月14日にニューヨーク州バファローで、24日にテキサス州ユバルディで立て続けに起きた銃乱射事件で愛する者を失った家族と面会している。被害者に心からの深い共感を寄せる能力は、バイデンの政治的成功に大きく貢献した資質だろう。

アメリカでは私が高校を卒業して以来、31万1000人の生徒が学校で銃乱射事件を目撃している。犯人の年齢の中央値は──16歳だ。

ニュージーランドのクライストチャーチで2019年3月、2つのモスク(イスラム礼拝所)を狙った銃乱射事件が起こり、51人が犠牲になった。そのわずか数日後、アーダーン首相は軍隊仕様の半自動小銃やアサルトライフル、大容量弾倉の禁止法案を発表。議会もすぐ法案を可決した。

アメリカでは2012年12月にコネティカット州のサンディフック小学校で起きた銃乱射事件の後、上院で当時のオバマ大統領が強く支持する、全ての銃販売に身元調査を義務付ける法案の審議が行われた。

法案採決に賛成した上院議員54人を選出した州の総人口は1億9400万人。反対した上院議員の背後にいるアメリカ人は1億1800万人だった。だが時代遅れのルールのせいで法案採決に持ち込むには全議員の5分の3以上(60人以上)の支持が必要だったため、結果的に1億1800万人が多数派の1億9400万人に勝ってしまった。

アメリカ人の銃に対する考え方は矛盾に満ちている。2021年に行われたピュー・リサーチセンターの世論調査によると、アメリカ人の40%以上が銃のある家庭で暮らしている。この国には100人当たり120丁の銃があり、世界で所有されている銃のほぼ半分が集中している。ジョージア州ケネソーには、「市域の全ての世帯主は銃を所有しなければならない」という条例まである。

一方でアメリカ人の48%が銃による暴力を「極めて大きな問題」と捉え、約53%が銃規制の強化を望んでいるが、この数字は2019年の60%からむしろ後退している。銃規制派が多い民主党支持者の間でも、規制強化を望む声は2019年の86%から21年は81%に減った。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

訂正中国が北京で軍事パレード、ロ朝首脳が出席 過去

ワールド

米制裁下のロシア北極圏LNG事業、生産能力に問題

ワールド

豪GDP、第2四半期は前年比+1.8%に加速 約2

ビジネス

午前の日経平均は反落、連休明けの米株安引き継ぐ 円
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 5
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 10
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story