コラム

急進的でなくてもいい、不必要に時代の波に乗らない... エリザベス女王に学ぶリーダーの資質

2022年09月22日(木)17時00分
エリザベス女王

エリザベス女王は敬愛を集めただけではない RUSSEL CHEYNE-REUTERS

<英国民や世界中の人々から慕われた英エリザベス女王は、極めて長い統治期間にわたり見事な成功を収めたそのリーダーシップのスタイルにも注目する価値がある>

エリザベス女王には、世界のリーダーたち、そして彼女と私的、あるいは公的に親交のあった人々から感情のこもった賛辞が贈られている。それ以上のことを言えるとも思えないので、僕はあえて合理的に、彼女のリーダーとしての資質について分析してみようと思う。彼女はその極めて長い統治期間を通じて見事な成功を収めており、彼女のリーダーシップのスタイルは研究、理解する価値がある。

まず、早い段階で自らの使命を表明し、それを貫くこと。エリザベス女王の場合、即位5年前の1947年、21歳の誕生日での宣言「長くとも短くとも私の全生涯を国民への務めにささげる」がこれに当たる。そして彼女は、死去する2日前でさえトラス新首相に新政府樹立を依頼するなど、絶え間ない職務をこなし、この誓いを明確に果たした。

簡潔さと明瞭さ故にこの誓いは人々の記憶に刻まれ、彼女がそれを守り抜いたという事実は、長い治世における(不可抗力ながらも)困難な時期であっても彼女の助けとなった。チャールズ皇太子(当時)の離婚やダイアナ元妃の死などで王室人気が一時的に急落したときであっても、王室批判派でさえ女王が誓いを守り続けていることは認めざるを得なかった。

2つ目に、あらゆるリーダーが急進的である必要はないということ。女王が長期にわたり強力な地位に就きながら、イギリスに多くの変化をもたらさなかった、と言うことは決して無礼を意味しない。それどころか、彼女が自らの役割を心得て、境界を踏み越えないよう抑制的だったことを意味する。もっと介入主義の君主だったらどうしても政治的とみられるだろうし、その中立性に疑問符がつく場合は「中立な国家元首」の存在意義に議論が起こっただろう。

3つ目に、少ないほうがより効果的な場合もあるということ。エリザベス女王は実のところ、国家の一大事に対してごくまれな(そして慎重な)介入を行ったことが何度かあるが、あまりにその機会が少なかったために特権階級の「気まぐれ」な口出しのようにみられることはなかった。むしろ、自らの努力で発言権を勝ち取った者による「考え抜かれた」見解と見なされた。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EU、温室効果ガス40年に90%削減を提案 クレジ

ビジネス

物価下振れリスク、ECBは支援的な政策スタンスを=

ビジネス

テスラ中国製EV販売、6月は前年比0.8%増 9カ

ビジネス

現在協議中、大統領の発言一つ一つにコメントしない=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 8
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 4
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story