コラム

中古ショップで見える「貧困」の真実

2016年02月05日(金)17時00分

圧倒的に不利な取引なのに

 それを考えれば、僕はこの手の経済的選択の「受益者」の側にいると思う。僕は発売から数カ月たったDVDを1~2ポンドで買う。つまりは、誰かが発売時に6ポンド出して買って、すぐに中古店に50ペンスかそこらで売ったものだ。こういう人々はきっと、給料日前にカネを使い果たしがちなのだろう。

 話を盛り過ぎていると思われないといいが、この10分後に僕は、2軒目の中古店でまた別の女性がけっこう新しいテレビを売る(かもしれない)ところを目撃した。数カ月前に600ポンドしたものだという(クリスマスプレゼントだったんじゃないかと思う)。いくらになりますか、と彼女は店員に聞いた。140ポンドです、とのことだ。

 ところが彼女は、そのテレビを買い戻せるかどうかと聞いていた。その場合は、店が28日間まで商品を保管して、160ポンドで売るという。

 僕は即座に計算した。28日間めいっぱい引っ張って140ポンドを借りたのだとして、差額として20ポンドの利息を払うことになるのだとしたら、年率では186%だ。どう考えてもお得な取引ではない。テレビを店に持ち込んでまた買い戻しに来る不便さを考えればなおのことだ。

 実際のところこうした話はいつでもよく耳にするものの、1~2月には特に急増する。人々がクリスマスに散財し、その結果を後悔する時期だからだろう。

【参考記事】わが家の資産価値上昇を僕が喜べない理由

 イギリスでは「貧困の罠」という言葉がある。貧しい人々が銀行からカネを借りたりクレジットカード(基本的に年利18%ほどだ)を作ったりすることもできないために、貧困から抜け出せないという状況を指す。

 彼らはおそらく、オークションサイトのeベイに自分で出品する方法も知らないだろうし、売却価格が高くなりそうな時期を待つような余裕もないのだろう。イギリスにはさらに、「貧者は救い難し」との言葉もある。正直、彼らはカネの扱い方についてまったく分かっていないように見えるからだ。

「貧困の罠」にとらわれた彼らに同情したいとは思う。でもこうした現実を目の当たりにしてしまうと、「貧者は救い難し」に一理あると思わざるをえない。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、イラン・イスラエル仲介用意 ウラン保管も=

ワールド

イラン核施設、新たな被害なし IAEA事務局長が報

ビジネス

インド貿易赤字、5月は縮小 輸入が減少

ワールド

イラン、NPT脱退法案を国会で準備中 決定はまだ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story