コラム

わが家の資産価値上昇を僕が喜べない理由

2015年12月15日(火)18時40分

この10年でロンドンの不動産価値は劇的に増加した(写真はロンドン・ノッティングヒルの街並み) Starcevic-iStock.

 10年ほど前、友人のニックがなかなか印象的なことを言った。その4年ほど前に彼が買った家は、4年間に彼自身より多く「稼いだ」というのだ。

 具体的な金額を聞くのは失礼だから聞かなかったけど、おそらく本当に彼の言うとおりだったのだろう。彼は特に高給取りでもなかったし、イギリスでは不動産価格がもう長いこと高騰し続けていた。彼が住むロンドン地区では特に顕著だ。

 彼の名言は不動産フィーバーの時代を何ともうまく言い当てていたから、僕はこの話をあちこちでした。この10年間のほとんどずっと、不動産価格は毎年毎年2桁の増加率で右肩上がりを続け、劇的に増加した。同期間に給与水準のほうは、ゆるやかに上昇したくらいだった。

 不動産価格が異常に上昇したのは、この時期に限った現象ではなかった。世界金融危機の影響は深刻で、イギリスは今もまだ浮上できずにいるが、それでもイングランド南部では不動産価格は上がり続けている。金融危機の直後には急下降したが、それも今となっては右上がりのグラフをほんの一時的に折れ曲がらせたにすぎなかった。

 僕の家も購入してからの4年間で僕自身より稼いだ......とはいえないまでも、わが家の資産価値の上昇分は、僕がこの4年間でどうにか貯金できた金額よりはるかに多く、その貯金についた利息よりもずっと高いのは確かだ。ニックの言葉をまねて言うとこうなる――この家を所有しているだけで、僕自身が4年間にやったどんなことよりも、家のほうが僕の資産を増やしてくれたことになる。

 言っておくが、ニックも僕も決して自慢しているわけではない。人がうらやむような状況であるのは承知のうえだが、それでもニックはこんな事態はちょっとばかげていると思って言っただろうし、僕は今となってはこんな事態はものすごくばかげていると思っている。

「パパママ銀行」を頼るしかない

 イギリス人は昔から、不動産に異様に執着するといわれている。僕も例外ではないし、自分の「城」を自慢に思っている。だが今のイギリス人が、自分の家がどれほど素敵な家かということよりも、家にどれだけの「価値」があるかに執着しているのにはあきれてしまう。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

独経済団体、半数が26年の人員削減を予想 経済危機

ワールド

中国軍、台湾周辺で実弾射撃伴う演習開始 港湾など封

ビジネス

韓国クーパン、顧客情報大量流出で11.8億ドルの補

ワールド

尹前大統領の妻、金品見返りに国政介入 韓国特別検が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story