コラム

わが家の資産価値上昇を僕が喜べない理由

2015年12月15日(火)18時40分

 僕はそういう考え方はしたくない。わが家の価値が30万ポンドになったぞ、買った時より8万ポンドも増えた! などと言って喜ぶ人の気がしれない。いくら値上がりしたって、実際のところその金額を手に入れるために家を売ろうとする人はそういないはずだからだ。

 住宅価格の高騰にはほかにも大きな問題がある。価格が上がれば上がるほど、若者たちが家を買うのが難しくなるという点だ。いうなれば、家の価値が上がったといって喜んでいる親たちは、自分の子どもたちの不幸を喜んでいるのと同じだ。

 その結果、30歳くらいになるまで独立できず、親と一緒に住む人々が増えている。あるいは20代の初めで一度は一人暮らししたものの、数年後に親元に戻ってくるというのもよくあるパターンだ。

 大抵の場合、若い人は「パパママ銀行」からの援助に頼れる場合にしか家を買えない。つまり親たちは、頭金を工面するため、成人した子どもにかなりの額の現金を貸すか与えるかしなければならない。

投資目的の住宅購入は減るか

 01年頃から始まったイギリスの住宅価格の高騰に僕はずっと頭を悩ませてきたが、最近、この問題に関して新しい動きがあった。まず、イギリス国内で2軒目の家を買う人は、より高額の印紙税を払わなければいけないことになった。次に、初めての家を買うために貯金している人のために政府が3000ポンドまで加算してくれる銀行口座ができた。

 後者の政策は明らかに、人生で最初の家を買おうと奮闘する若い人たちにとっての「救いの手」となるのが目的だ。だが、これまでにもあった似たような政策は結局、ただでさえ膨れ上がった住宅市場をさらに過熱させていただけに思える。特に価格の高騰が激しい地域では、政府が「提供した」金額(もちろん、もとは税金だ)よりも大幅に住宅価格を押し上げることになるだろう。

 この政策は道徳的にみても問題がある。家を買うことが可能な人たちに資金を「あげる」ことになるからだ。たとえば、パパママ銀行から1万2000ポンド出してもらえる人は政府からの加算を加えて1万5000ポンドを確保できる。もっと貧しくて、親にもお金を出してもらえない人は政府からの援助を手にすることはできない。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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