コラム

地下鉄対決:ニューヨークvs.ロンドン

2009年10月28日(水)14時50分

 先週、面白いニュースを聞いた。ニューヨーク州都市交通局(MTA)がロンドンの地下鉄当局の関係者をコンサルタントに雇うという。なんだか不思議だ。何しろ多くの人がロンドンの地下鉄の運行はメチャメチャで、値段が高いと思っている。そのアドバイスをもらうなんて、日本政府に公的債務の減らし方ついて助言を仰ぐようなものだ(あるいはアイスランド政府に銀行規制の方法を聞くとか?)

 ロンドンとニューヨークの地下鉄のどちらが優れたサービスかは、長いこと議論の的だった。僕は公共交通網のちょっとしたおたく。あまり細かな点には触れないようにしたいが、重要な点ではニューヨークの地下鉄のほうが優れていると思う。ずっと安いし、24時間走っているし、ロンドンの地下鉄よりは少しだけ信頼できる。ロンドンが優れているのは表面的な点だ。見た目も感覚もモダンであるということ。おしゃれな駅もあるし、新しい車両も導入された(中心部の路線は発達していて信頼できるので、ロンドンを訪れた人は実際よりずっといい印象を持つ)。

 それでもロンドンの地下鉄には、ニューヨークにはない工夫がいくつかある。

 MTAは、ロンドンの地下鉄の電光表示板システムを取り入れようとしているらしい。次の電車がいつ来るかを表示する、あれだ。ニューヨークの地下鉄には絶対必要だ。この街の地下鉄の駅で見かける光景で笑えるのが、「ダッシュ」。2つの路線がまたがっている駅でどちらの路線にも乗れる人は、両方のプラットフォームが確認できる位置(たいていは階段の近く)にたむろしていて、最初に電車が来たほうにダッシュして乗り込む。電光掲示板があれば、そんなことは不要になる。

 ロンドンから導入しようとしているもう1つのアイデアは、ピーク時とオフピーク時で運賃に差をつけるシステムだ。夜間や週末の料金を抑えることで人々にもっと地下鉄に乗ってもらおうというのなら、これも大歓迎だ。朝の通勤時にロンドン並みに料金を値上げする口実にするとしたら問題だが。通勤客は朝地下鉄に乗る以外に選択肢はないのだから。
 
 それから、改札のゲートをなんとかしたほうがいい。ちゃんと切符を持っていても改札を通るのが至難の業なのは、僕の知っているかぎりニューヨークだけだ。メトロカードを通す仕組みなのだが、たいていはうまくいかない。

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 コツは正しいスピードで通すこと。でも、10分の1秒早過ぎて遅過ぎても、ゲートは動かない。1カ月もすればコツはつかめるが、観光客は戸惑う。カードの残額がもうないのか、それとも改札口が壊れているのか、と悩んでいる姿をよく見掛ける。フルトン・ストリートなど観光客が多く改札口が少ない駅では渋滞が起きることも。もちろん僕を含め住民たちも、最悪のタイミングで引っかかることがある。電車が来る音を聞くと、焦って早く通し過ぎて失敗し、再び通す羽目に。その数秒のロスで電車を逃してしまう。

 これでは、ロンドンの地下鉄に見習おうとするのもうなずける。あるいは、パリや香港、東京の地下鉄に学んだほうがいいのかも?

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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