コラム

増税延期に使われた伊勢志摩「赤っ恥」サミット(後編)

2016年06月06日(月)15時10分

Carolyn Kaster-REUTERS

<消費税率10%への引き上げは19年10月に延期となったが、そもそもこの増税は必要なのか? 消費税のモデルとなったヨーロッパの付加価値税は、制度上の欠陥が多いことから現在も見直しが進められている>

【前編はこちら】

 さて、決してG7の成果ではありませんが、取り敢えず来年4月に予定していた消費税率の10%への引き上げが2019年10月へ延期となりました。これから約3年、あらためて消費税制度のそもそも論を考える時間的猶予が与えられました。そして、その消費税の在り方を根底から考え直す、最大の材料もバッチリのタイミングで欧州から出てきました。

 日本の消費税は欧州の付加価値税(Value Added Tax)をモデルに導入されたものですが(70年代から欧州調査団などが欧州の付加価値税制度の実情を研究、日本での導入に勤しんできた歴史があります)、元々は1954年に初めてフランスで導入された税制です。以来60年代、70年代を通じて急速な広まりを見せてきましたが、OECDに加盟する30カ国の中では唯一米国が付加価値税を導入していません。要するに、フランスそして欧州が「消費税の産みの親」というわけです。

 開発国である当のフランスで付加価値税がどう捉えられているのか。日本で著名なフランスの経済学者と言えばトマ・ピケティ氏かと思いますが、逆進性が強く社会の不平等を加速する付加価値税には反対の立場です。昨年来日した折には、欧州の例を見習い社会保障費の財源確保のため消費税増税の必要性を説く指摘に対して、欧州の付加価値税率が高いのは高福祉のための財源ではなく、関税としての役割が強いためと一刀両断していました。

【参考記事】消費税再延期も財政出動も意味なし? サミットでハシゴを外された日本

 また、前編で紹介したエマニュエル・トッド氏も近著の中で付加価値税制度そのものに対して反対の意見を述べています。今年、来日した際には誠に贅沢な限りではありますが、堀茂樹教授の同時通訳を介して、直接ご本人と付加価値税の話をしましが、付加価値税について、トッド氏いわく「フランスの最悪の輸出品」。

 実のところ、現行のEU付加価値税制度はEUの単一市場構築のため1993年からスタートしたものに修正・補足を重ねた「暫定的制度」に過ぎません。かねてからEC(欧州委員会)自身が現行の付加価値税制度における「中立性」や「簡素性」の欠如を問題視してきました。彼らが中心となって欧州議会、欧州経済社会評議会および加盟国財務省の代表で構成される税務政策グループを巻き込んで、付加価値税の徴税漏れ(=制度欠陥)を防ぐための不正取り締まりの強化や実務の透明性と簡素化を図るための本格的な調査・分析を実施してきた経緯があります。日本では全くと言っていいほど報道されていませんが、抜本的な制度改革を進めるための調査・分析に関連する報告書は実に1700にも及ぶとされ、そうした報告書や会議や公聴会の結論を踏まえて、この度「恒久的制度」に向けての行動計画が4月7日に公表となりました。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「人生で最高の栄誉の一つ」、異例の2度目

ワールド

ブラジル中銀が金利据え置き、2会合連続 長期据え置

ビジネス

FRB議長、「第3の使命」長期金利安定化は間接的に

ワールド

アルゼンチンGDP、第2四半期は6.3%増
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story