コラム

加計学園問題は、学部新設の是非を問う本質的議論を

2017年06月19日(月)17時00分

加計問題の国会審議では「総理のご意向」文書に関して多くの時間が割かれたが Toru Hanai-REUTERS

<与野党間の政治的駆け引きの材料になってしまった加計学園問題。獣医学部新設の目的、意図はどこにあるのかという、国家戦略を見据えた本質的な議論は置き去りのまま>

準レギュラーを務めておりますラジオ番組で、6月に入ってすぐに出演した際のテーマは『加計学園問題』でした。お話した内容を書きおこして欲しいとの要望を頂戴しましたので、この場を借りてざっと書いて参りたいと思います。

この問題では文科省の前川・前事務次官の発言や「総理のご意向」文書の存在が随分と注目されてきましたが、本質論に正攻法で迫れば前川氏を持ち出すまでもない、というのがワタクシのスタンスです(従って前川氏が出会い系バーに行ったことでの人格否定や、退官後に子どもへのボランティア活動を買って出たといった美談も含め、人物評価なども本件とは一切関係ないと考えています)。

本質論に迫る上で、最も重要な獣医学教育や人獣共通感染症が何たるかについては専門家の方にお任せするとして、それ以外の審議の在り方について2つのフェーズに分けてお話しました。

国家戦略特区とは今さらここで申し上げるまでもなく、第二次安倍内閣が導入した経済戦略の柱とされ、従来の特区とは違って総理大臣のトップダウンで指定地域にて大胆な規制緩和を進めるのを特徴としています。最近の例では、『民泊』や『ドローン』などが認められたのをニュース等で御存知のことと思います。

【参考記事】こうすれば築地・豊洲問題は一発で解決!

『民泊』や『ドローン』と並列に獣医学部も、何でもかんでも総理大臣のトップダウンで決めるのが適当なのかという議論はありますが、それは一端脇に置いておいて、敢えて「岩盤規制にドリルで穴を開ける」論理から考えてみたのが1つ目のフェーズです。

例えば、人間の場合、医師や病院が受け取る診療報酬は公定価格が決められているのに対して、動物病院の診療報酬は人間とは違い自由に価格が設定される自由競争下にあります。であるにもかかわらず、獣医学部の新設を50年以上回避して、わずか16校の設置に留めて置くのは獣医師の供給を行政側が制限している、岩盤規制に相当するというのが規制緩和派の主張かと思われます。

もちろん、動物の命を扱う分野ですから、獣医学部をどんどん増やせばよいと言うつもりはありませんし、医療行為や薬品の取り扱いに関わる以上、何等かの規制は必要と考えますが、あくまでも岩盤規制を打ち破るという側面からみるなら、なぜ手を挙げた京都産業大学も併せて認可をしないのか(仮に今回は見送りとしても、将来的な許可の可能性すら示さないのはなぜなのか)。

そこを「1校に限るという要件は、獣医師会等の慎重な意見に配慮した。獣医師会から要請があった」としてしまっては、岩盤規制にドリルで穴を開けるどころか、実質的には岩盤規制を温存したまま既得権益を1校増やすだけになります。本当のところ、国家戦略特区で一体何がなさりたいのか?という疑問が沸いてくるわけです。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

タイ新首相、通貨高問題で緊急対応必要と表明

ワールド

米政権、コロンビアやベネズエラを麻薬対策失敗国に指

ワールド

政治の不安定が成長下押し、仏中銀 来年以降の成長予

ワールド

EXCLUSIVE-前セントルイス連銀総裁、FRB
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story