コラム

極右政党を右派ポピュリズムへと転換させたルペンの本気度(後編)

2017年04月13日(木)16時00分

中道候補のマクロンは若さと清新さでブームを起こしたが…… Robert Pratta-REUTERS

<フランス大統領選、情勢分析の後編。ルペンの対抗と目される中道候補マクロンは、若さと新しさでブームを作ったがそのうわべだけの正体がバレ始めている>

前編から続く

すでに報道等で伝わるように、今の形勢では第一回投票でルペン1位、マクロン2位となっています。いずれの候補者も過半数は満たしていませんので、このままいけばこの二人が第二回での決選投票になる見込みとなります。ルペン支持者はルペン氏への投票の意志が固いのに対して、マクロン支持者は今後意志が変わるかもしれないと回答するなど、その多くがさほど「熱くない」支持の様子です。

とは言え、第二回投票では6割以上の有権者が、ルペン氏の行く手を阻むのではないかというのがもっぱらの下馬評であり、消去法的にマクロン氏を挙げる人も多いため、通常であればルペン氏は負けるはずです。しかしながら、米大統領選でのトランプ支持者同様に「隠れルペン」の存在は否めません。

トランプ氏はそれでもアメリカの伝統的な一大政党である共和党からの出馬でしたが、ルペン氏は所詮、周縁的政党の党首に過ぎません。その点において両者を並列で語るのは的確ではないのですが、そもそも2000年初頭まで差別主義の政党として仏国民からNGを突き付けられてきた国民戦線がここまで仏大統領選に食い込んでくること自体が大異変であることは間違いありません。

【参考記事】極右政党を右派ポピュリズムへと転換させたルペンの本気度(前編)

その布石としては、党の創始者であり、差別主義者で反ユダヤのジャン=マリ・ルペン(マリーヌ・ルペンの実父)をマリーヌ自身が毅然として党から除名したことが大きく、党内部の浄化を通じて仏政治の主流派へと国民戦線を押し上げようとする、その本気度がうかがえる出来事でもありました。

不思議な事に、除名されて党籍を失った父親は党の「名誉会長」に最終的にはとどまっていますが、現在の政党「国民戦線」とジャン=マリ・ルペンの間が断絶していることはすでに仏社会に知れ渡っているという状況です。

国民戦線の支持基盤は中・低所得者層であり、高学歴ではない層であること、労働者層からの支持については3月の世論調査では他の候補者が軒並み10%台しか取り付けてないところ、ルペン氏は断トツの43%となっていることなどからトランプ氏を彷彿とさせるものはやはりあります。

目下1位と2位となっているルペン氏とマクロン氏、その対峙する構図について本人たちは、マクロン氏は「進歩主義(自身)対 保守主義(ルペンは古臭いというニュアンスこめて)」、ルペン氏は「躊躇なしのグローバリズム(マクロン)対パトリオット(自身)」としています。高所得者層・高学歴層の支持を集める「いかにもエスタブリッシュメントのマクロン」と、それ以外からの支持を集める「いかにも民衆代表のルペン」とわかりやすい状況でもあります。

仏メディアはマクロン支持が強いようですが、良し悪しの評価は別として、個別政策であるテロ対策(刑務所の増設)、税制(中下層の減税、付加価値税の引き上げナシ)、経済政策(総需要政策)、通貨政策(ユーロと自国通貨の共存)など具体的に掲げるルペン氏に対して、弁は立っても具体的政策がイマイチ不鮮明なマクロン氏とでは、マクロン氏の分は悪いのではないかというのが堀教授の見立てでもあります。何より、政権を本気で取りに行く凄まじい意志がルペン氏からは見て取れるとも。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

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