コラム

増税延期に使われた伊勢志摩「赤っ恥」サミット(前編)

2016年06月03日(金)17時30分

Issei Kato-REUTERS

<サミットの場を消費税増税の延期を決める道具として利用した安倍首相。他の参加国のメディアからは当然のごとく異論が噴出している。今回はその前編>

 やってしまいましたねぇ、G7。

 これまで手厳しい建設的批判をしてきたのもトップが推進する経済政策が何とか上手くいって欲しいとの願いから。でないと国民生活が疲弊してしまいます。国際会議の場でも赤っ恥をかかないよう苦言を呈してきたつもりだったのですが、結果的には未然に防ぐことが出来ず慚愧に堪えません。

 今回も突っ込みどころ満載のため、何からお話しようかと思いつつ「そもそも論」をベースに、何かと話題になっている「謎」とされるサミット資料と消費税増税延期にポイントを絞って参りましょう。

「そもそも論」その①。以前の寄稿でもお伝えしました通りサミットはあくまでも国際的な経済、政治的課題について討議する会議であり、一国の税制を判断する場ではありません。従いまして、消費税増税をするか否かが議論の俎上に上ることなど凡そあり得ません。それ以前に、税制などの内政の道具として国際会議の場を使うのは顰蹙を買うものだということは、既に国内報道されている英ファイナンシャルタイムズの「消費税増税延期の口実」などの批判的な論調からもご理解いただけるかと思います。

 とは言えこれまでの日本の主要メディアのスタンスを考えれば、安倍政権を真っ向から批判するような記事を、海外報道を丁寧に踏襲して早々に掲載するのはフットワークが良すぎます。また、「謎」とされる資料について、誰が作成したかわからないなどと半ばリークのような形で、これほど迅速に国民の目に晒されるのも違和感があります。消費税増税10%の延期に忸怩たる思いの財務省と、10%増税の際の軽減税率の恩恵を受け損なった新聞業界の思いが図らずも?結託した結果、普段は伝わるはずもない情報が即座に正確に国民に伝わっているのでしょう(なお、軽減税率がなぜ対象業界の補助金となるのかは軽減税率の問題を指摘している独ペッフェコーヴェン教授の論旨をご紹介しましたこちらをどうぞ。)

 ともすれば消費税増税延期が悪手とも取れるような指摘も一部にあるようです。ここはハッキリ申し上げますが、消費税増税の見送りは当然の判断です。例えば英ガーディアン紙による "The last rise in the sales tax, from 5% to 8% in April 2014, led to a plunge in consumer spending and dragged Japan back into a recession from which it has struggled to recover." (2014年4月の5%から8%への直近の売上税引き上げは、個人消費を急激に落ち込ませ、これまで悪戦苦闘してきた不況へと日本を再度引き摺り落とした)との指摘が象徴的するように、増税が不況再突入をもたらせた以上、見送りだけでは不十分。実体経済を元の状況に戻すつもりなら、せめてアベノミクススタート地点である5%に税率を引き下げるべき、ということになります。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国政府系ファンドCIC、24年純利益は前年比30

ビジネス

独ティッセンクルップ、26年は大幅赤字の見通し 鉄

ビジネス

ドイツ輸出、10月は米・中向け大幅減 対EU増加で

ビジネス

グーグル、AI学習でのコンテンツ利用巡りEUが独禁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 9
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 10
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story