コラム

消費税再延期も財政出動も意味なし? サミットでハシゴを外された日本

2016年05月31日(火)06時12分

Carlos Barri-REUTERS

<伊勢志摩サミットで協調した財政出動を打ち出したかった日本だが、日本のもくろみは外れてしまった。経済政策は完全に手詰まりになっている>

 伊勢志摩サミットは27日、首脳宣言を採択して閉幕した。日本は財政出動に関して強いリーダーシップを発揮したいと意気込んで会合に臨んだが、各国は実質的にゼロ回答に終始し、日本の目論見は完全に外れてしまった。

 安倍首相はサミットでの合意よりも消費税再延期という国内事情を優先し、「リーマンショック級」の危機が発生するリスクがあると主張したが、これは、各国との認識のズレが大きいことを市場に知らしめる結果となってしまった。米国は大統領選挙の影響もあって早期利上げに急速に傾いており、日本がサプライズ的な経済対策を打ち出すことについて、歓迎しなくなっている。サミットを通じて、日本は自らの選択肢を狭めてしまったかもしれない。

ドイツは当初から財政出動に否定的

 今年の前半は、資源価格の下落や中国の景気失速など不安材料が目白押しで、伊勢志摩サミットでは、経済対策が主要な議題になるとの声も多かった。安倍政権としては、7月の参院選を控えており、サミットをうまく活用することで大型の景気対策を打ち出し、選挙を有利に進めたいとの思惑があったようである。米国の一部から財政出動が必要との見解が示されていたことを利用し、サミットでは、協調した財政出動について安倍首相がリーダーシップを発揮するというシナリオが準備された。

 だが、財政出動についてドイツは当初から否定的であり、英国やフランスもドイツの立場を尊重する可能性が高かった。各国が協調した財政出動を実現するには、どうしてもドイツのメルケル首相を説得しなければならない。安倍首相がゴールデンウィーク中にわざわざドイツと英国を訪問し、メルケル首相と会談したのは、財政出動についてメルケル氏の理解を得るためである。

 しかし、一連の首脳会談においてドイツはほぼゼロ回答に終始し、キャメロン英首相も各国の事情を考慮すべきと、日本側には同調しない方針を明確にした。安倍首相はほぼ手ぶらで帰国し、今回のサミットに臨む結果となった。

 ドイツが日本主導の財政出動に対して否定的な理由は2つある。ひとつは、経済政策に対するドイツの基本的な考え方であり、もうひとつはマクロ的な経済環境の変化である。

結局、日本だけが財政出動を要望する格好に

 ドイツは、基本的に財政出動が経済を持続的に成長させるという認識を持っていない。財政再建を積極的に進め、過大な政府債務を削減した方が、長期的な効果は大きいとの立場だ。実際、ドイツは財政再建を実現しており、2015年度予算からは事実上国債の発行がゼロになっている。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネスなどの分野で執筆活動を行うほか、テレビやラジオで解説者やコメンテーターを務める。『お金持ちの教科書』(CCCメディアハウス)、『スタグフレーション』(祥伝社新書)、『本気で考えよう! 自分、家族、そして日本の将来』 (幻冬舎新書)など著書多数。

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