コラム

ISが石油価格に与える影響─ 輸出ルートを潰した後で

2015年12月17日(木)16時10分
ISが石油価格に与える影響─ 輸出ルートを潰した後で

11月18日、ロシア空軍は、ISの石油施設を空爆した REUTERS/Ministry of Defence of the Russian Federation

 テロ組織の動向と原油相場はつながっている。今回はその関係を紹介してみたい。

 過激派組織IS(自称「イスラム国」)は、なぜ活動を続けられるのか、誰もが不思議に思うだろう。ISは石油を売ることによって潤沢な資金がある。世界のテロ組織の資金を、米財務省が追跡している。今夏に公表された報告では14年のISの石油による収入を5億ドル(約615億円)と推計している。イスラエルは13年末段階で、ISの資産総額を20億ドルと分析し、「世界で最も富めるテロ組織」であると警告していた。この資金力によって兵士を含め、約10万人の組織員を養っているという。

 ISはこれまで誘拐による身代金や、支配地からの強制徴税、イラクの旧フセイン政権の資産などを軍資金にしてきたとされる。13年頃にシリア北部の小規模な油田数カ所を占領し、14年にイラク中部に侵攻して大きな油田を手に入れた。イラクには以前から原油密輸ルートがあった。イラク−トルコ−東欧につながり、中央政府に統制されない、現地の有力者や部族の協力によるものだ。というISはこれを乗っ取り、石油販売を拡大したようだ。

暴かれた石油輸出ルート

 そのISの隠された石油輸出ルートが次第に明るみに出ている。米軍の特殊部隊が今年5月、シリア東部でISの石油事業責任者を殺害した。その際に押収した文書から「トルコ当局者と『イスラム国』上層部の、石油の直接取引の証拠があった」と、米英のメディアが伝えている。

 また11月24日にロシア機がトルコに撃墜された。両国は責任をめぐって、相互に非難しているが、その中でロシアは「トルコがISから石油を買っている」と暴露。トルコ政府は否定した上で、ロシアがシリア政府機関を通じてISから石油製品を購入していることを公表した。非難合戦で示された事実の真偽は不明だ。

 米国を中心にした有志連合は昨年夏からISの空爆を行っていたが、米軍はパイプラインや石油精製施設の徹底的な破壊には慎重だった。これらは現地企業の資産だ。しかもシリアとイラクではIS以外にも、さまざまな武力集団が紛争に参加している。ISへの空爆強化は、シリアのアサド政権を強化しかねないため、米軍は慎重になったのだろう。

 しかし、このままではISを打倒できないという批判が、各国では出ていた。「オバマ政権も世界の中東専門家も、ISを過小評価していた。石油を断たなければならない」米通信社ブルームバーグは先日、米ランド研究所のアナリストのコメントをこう伝えている。(「なぜISは必要な資金を調達できるのか」11 月19日記事 (Why ISIS has all the money it needs

 そして、ロシアは11月から、ISの石油輸出ルートを11月から攻撃。数十台のタンクローリー車の車列が爆撃で一瞬にして消し飛ぶ姿などを公表し、「ISの原油の流通を半減以下にした」と発表している。12月から空爆に参加した英国も、石油施設を攻撃していることを公表。ISは今後石油の輸出が困難になるだろう。

プロフィール

石井孝明

経済・環境ジャーナリスト。
1971年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。時事通信記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長を経て、フリーに。エネルギー、温暖化、環境問題の取材・執筆活動を行う。アゴラ研究所運営のエネルギー情報サイト「GEPR」“http://www.gepr.org/ja/”の編集を担当。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞)など。

ニュース速報

ビジネス

中国の個人投資家、MMF解約し株式に投資

ワールド

米最高裁、17年ぶりの連邦政府の死刑執行認める 下

ビジネス

独VWとSAIC、約6億ドル投じ上海工場刷新へ ア

ワールド

韓国、環境分野で雇用創出 950億ドル投資へ

MAGAZINE

特集:台湾の力量

2020-7・21号(7/14発売)

コロナ対策で世界に存在感を示し、中国相手に孤軍奮闘する原動力を探る

人気ランキング

  • 1

    東京都、新型コロナウイルス新規感染206人 4日連続200人台、検査数に加え陽性率も高まる

  • 2

    新型コロナの起源は7年前の中国雲南省の銅山か、武漢研究所が保管

  • 3

    世界へ広がる中国の鉱物資源買収 オーストラリア・カナダ両国が「待った」

  • 4

    24歳年上の富豪と結婚してメラニアが得たものと失っ…

  • 5

    中国・三峡ダムに「ブラックスワン」が迫る──決壊は…

  • 6

    GoToキャンペーン「感染防止に注意し活用を」菅官房長…

  • 7

    抗体なくてもT細胞が新型コロナウイルス退治? 免…

  • 8

    なぜテレワークは日本で普及しなかったのか?──経済、…

  • 9

    中国・長江流域、豪雨で氾濫警報 三峡ダムは警戒水位3…

  • 10

    「自粛要請」で外出を控えた日本人は世界に冠たる不…

  • 1

    「金正恩敗訴」で韓国の損害賠償攻勢が始まる?

  • 2

    中国・長江流域、豪雨で氾濫警報 三峡ダムは警戒水位3.5m超える

  • 3

    科学者数百人「新型コロナは空気感染も」 WHOに対策求める

  • 4

    中国・三峡ダムに「ブラックスワン」が迫る──決壊は…

  • 5

    東京都、新型コロナウイルス新規感染206人 4日連続2…

  • 6

    生き残る自動車メーカーは4社だけ? 「ゴーン追放後…

  • 7

    24歳年上の富豪と結婚してメラニアが得たものと失っ…

  • 8

    中国・超大国への道、最大の障壁は「日本」──そこで…

  • 9

    世界へ広がる中国の鉱物資源買収 オーストラリア・カ…

  • 10

    「香港国家安全法」に反対の立場を取ったトルドーに…

  • 1

    中国・三峡ダムに「ブラックスワン」が迫る──決壊はあり得るのか

  • 2

    「金正恩敗訴」で韓国の損害賠償攻勢が始まる?

  • 3

    国家安全法成立で香港民主化団体を脱退した「女神」周庭の別れの言葉

  • 4

    中国・長江流域、豪雨で氾濫警報 三峡ダムは警戒水位3…

  • 5

    科学者数百人「新型コロナは空気感染も」 WHOに対策求…

  • 6

    世界最大の中国「三峡ダム」に決壊の脅威? 集中豪…

  • 7

    中国・超大国への道、最大の障壁は「日本」──そこで…

  • 8

    孤立した湖や池に魚はどうやって移動する? ようや…

  • 9

    東京都、新型コロナウイルス新規感染107人を確認 小…

  • 10

    ポスト安倍レースで石破氏に勢い 二階幹事長が支持…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!