コラム

日本が核武装? 世界が警戒するプルトニウム問題

2015年11月24日(火)16時30分

原子力の〝裏〟の顔、平和利用

 原子力の利用は、〝表〟の原子力発電という平和利用の側面だけではない。軍事利用という〝裏〟と密接に絡み合っている。

 日本原燃は民間の株式会社だが、世界の安全保障にも、日本の国策とも関係している。この施設にはIAEA(国際原子力機関)の査察官が常駐している。そして濃縮、再処理の双方で、要求があればいつでも原燃は施設を公開する取り決めだ。
 
 濃縮とは、発電用の核燃料のために、高度な技術を使って核分裂反応を起こしやすいウラン(U235)を製錬されたウランの中から集めること。しかし、過度に濃縮するとウラン型原爆の材料になってしまう。そのために、国際機関が監視している。

 そして再処理の施設も重要だ。日本は約40年前、「核燃料サイクル」を打ち出した。使用済み核燃料は、使用後に変成する物質はわずか全体の5%程度だ。その大半を再利用して核燃料として再利用する。そしてプルトニウム、使えない物質を分離する。取り出したプルトニウムは高速増殖炉の核燃料で使う。高速増殖炉では、使うと化学反応で核物質が増える。その増分を使いさらに発電をすれば、永遠にエネルギー源に困ることはない。無資源国日本のエネルギー問題が解決すると期待された。

 こうした核燃料サイクルを持つのは核保有国のみだ。しかし日本は米国や各国との交渉で、平和利用に徹することを宣言して、これを行うことを認められた。プルトニウムは核兵器の材料になるため、国際的に抑制が求められている。しかし日本はそれを高速炉で使うこと、情報をすべて公開することを前提に、抽出を許されている。

 40年前の政府広報や、新聞記事を見ると核燃料サイクルは、「夢のエネルギーシステム」などと、日本中から期待されていた技術体系だった

行き詰まった核燃料サイクル

 ところが核燃料サイクルをめぐる状況は暗転する。高速増殖炉もんじゅ(福井県敦賀市)は複雑な構造から運用がうまくいかず、再開はかなり難しい。しかし、ここにつぎ込まれた国費は1兆円とされ、やめるとなれば責任問題が浮上する。

 また六ヶ所の再処理工場も停まっている。計画が遅れたが、稼動のメドがついたところで、東日本大震災と福島原発事故が発生した。原子力規制の体制が大幅に見直され、今はその基準作りで竣工は延期された。ここにも、主に電力会社の負担だがすでに約1兆円、建設費用がかかっている。

 再処理をすることは、日本の原子力の活用にとってプラスの面がある。ウラン調達の必要は減る。また使用済み核燃料の再加工によって最終的に処分する核のゴミは7分の1以下に小さくなる。量を減らすことは、その最終処分を多少は容易にするだろう。

プロフィール

石井孝明

経済・環境ジャーナリスト。
1971年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。時事通信記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長を経て、フリーに。エネルギー、温暖化、環境問題の取材・執筆活動を行う。アゴラ研究所運営のエネルギー情報サイト「GEPR」“http://www.gepr.org/ja/”の編集を担当。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、米国に抗議 台湾への軍用品売却で

ワールド

バングラデシュ前首相に死刑判決、昨年のデモ鎮圧巡り

ワールド

ウクライナ、仏戦闘機100機購入へ 意向書署名とゼ

ビジネス

オランダ中銀総裁、リスクは均衡 ECB金融政策は適
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 7
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 8
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 9
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 10
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story