コラム

原発は本当に安全になったのか――規制行政への疑問

2015年09月11日(金)17時10分

川内原発1号機。竜巻から守るため金属製の檻(中央左の格子状の建物)が設置された。(筆者撮影)

 九州電力の川内原子力発電所1号機が再稼動し、9月10日に商業運転を開始した。商業運転とは全検査を終了したということだ。2012年に発足した原子力規制委員会の定めた新規制基準に適合したと判定された初のケースだ。

 新規制基準の適用のために、原発は動いていない。政府は原発の規制を「世界一厳格な基準」(安倍晋三首相)と自賛する。しかし内実は「本当に安全になったのか」と疑問を抱くものだ。

 筆者は7月に川内原発を視察した。不思議な光景があった。プラント設備にワイヤーが取り付けられ、巨大な金属製の檻(おり)が置かれていた。調べると、地震や竜巻で主要設備が壊れないようにするための対策だ。国内で観測された最大規模の風速毎秒100メートルの竜巻や、この地域で過去に例のない620ガルの巨大地震に耐えるためという。

 しかし超巨大竜巻、超巨大地震など、起こる可能性は極めて少ない。この設備は無駄になる可能性が高い。そして起こる可能性のある、より小さな地震や津波、火事などの災害を想定した、対応に適切な規模の設備があるはずだ。

 こうした過剰とも言える規制対応は川内原発だけではない。日本の今の原発を、原子炉工学、機械工学の専門家はそろって「ゴテゴテプラント」と呼んでいた。さまざまな設備がつけられ、複雑になっているためだ。

10万枚の申請書類で疲弊

 その審査の姿も奇妙だ。日本の役所は書類好きの形式主義の問題があるとされる。規制委も同じだ。事業者が提出する書類は正式なもので8〜10万枚になる。大型書棚2つ分で、扱う量はその数倍だ。審査会合ごとに書類の山を各電力会社の社員がトラックを連ねて、東京六本木の規制委員会まで運ぶ。そして誤字脱字があれば書類を再提出させる。

 他国の規制行政では書類は電子化されているのに、日本では紙にこだわる。「紙で原子炉は安全にならない。むなしくなる」。ある電力会社の社員はつぶやいた。これも「世界一厳格な規制」の一面だ。

プロフィール

石井孝明

経済・環境ジャーナリスト。
1971年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。時事通信記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長を経て、フリーに。エネルギー、温暖化、環境問題の取材・執筆活動を行う。アゴラ研究所運営のエネルギー情報サイト「GEPR」“http://www.gepr.org/ja/”の編集を担当。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

サムスン電子、第3四半期は32%営業増益へ AI需

ワールド

ベネズエラ、在ノルウェー大使館閉鎖へ ノーベル平和

ビジネス

英中銀、今後の追加利下げの可能性高い=グリーン委員

ビジネス

MSとソフトバンク、英ウェイブへ20億ドル出資で交
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇敢な行動」の一部始終...「ヒーロー」とネット称賛
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story