コラム

玉石混交本の「石」は何と......編者

2020年12月22日(火)16時36分

HISAKO KAWASAKIーNEWSWEEK JAPAN

<コロナ禍で明らかになったのは、人はいかに自分が好む情報をもとに、自分の願望を語るかということ。玉石混交の本書でこの問題を明らかにしたのは編者......かもしれない>

今回のダメ本

02ishidobook201222.jpgポストコロナ期を生きるきみたちへ
内田樹[編]
晶文社
(2020年11月)

ここに集められた原稿は文字どおりの意味で玉石混交である。「玉」と呼べる論考は決して少なくない。一例を挙げよう。執筆陣の中に優れたドキュメンタリー映画で知られる想田和弘の名前がある。私はドキュメンタリストとしての想田はとても好きだ。毎日新聞岡山支局時代には、彼が舞台としていた精神科病院にも取材に行き、紙面でインタビューを掲載したこともある。

一方で、ツイッターなどで発信される想田のオピニオンはあまり好きではない。それは特に私の記事を批判しているから、政治的スタンスが違うからといった狭い理由ではなく、作品以上に鋭く社会をえぐっているとは思えない、というのが大きい。

本書で想田の名前を見つけたときに嫌な予感がしたが、これは全くの杞憂に終わった。彼は経済=お金の問題と考えるのは正しくないと指摘する。

「お金が動くということは、たいてい、それに伴って何らかの社会的な活動や交換がなされることを意味します。つまりお金が動かないということは、ひるがえって社会的な活動や交換の停滞を意味します」

ここで彼が鋭く指摘するように、私たちが直面しているのは実はお金という意味での経済ではなく、社会的な活動、言い換えるならば文化の停滞という危機にも直面している。GDPという1つの指標に表れる停滞は、社会活動の停滞である。この視点は、いまだに多くの議論から抜け落ちている。

本書の最大の皮肉は、玉石の「石」が編者である内田樹の一文にあることだ。内田はポストコロナ時代に、どのような雇用がなくなるかを考察している。ここであおられるのは、大胆な発想に基づくマスコミ不信だ。

プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

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