コラム

玉石混交本の「石」は何と......編者

2020年12月22日(火)16時36分

日本のメディアでは人工知能(AI)導入でどの雇用が消失するかが議論されていないと内田は書く。その理由は「これから食えなくなる職業」リストの上位に全国紙記者やテレビの制作スタッフ、広告代理店の営業の名前が出てくるからだ、というもっともらしい考察が付け加えられ、「メディアにとって不利な情報をメディアは伝えません」といった一文が決めぜりふのように入る。

AIが記者に代わって記事を書くようになる、という話は業界の中では散々話題になった。それは、もう約4年前に朝日新聞でAIと記者が速報記事で対決するというくだらない企画が繰り広げられていることからも分かる。今の時点で分かっているのは、AIがせいぜい誰でも書けるストレートニュースを代筆できるようになるかもしれないという程度の話だ。それも情報を確認するのは、まだまだ人間の仕事になるだろう。

さらに言えば、記者に代わって複雑な現場を独自にAIが取材をして、複雑な社会事象を質の高いレポートとして書けるようになるという話は皆目聞いたことがない。マシンに代行できないのは、「記者」の仕事も全く同じである。

コロナ禍で明らかになったのは、人はいかに自分が好む情報をもとに、自分の願望を語るかという問題である。本書は編者自らが、この問題を明らかにした、と読めないこともないのだが......。

<2020年12月22日号掲載>

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プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

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