コラム

アフガン難民はどこへ? 受け入れめぐるEU加盟国の不満といさかい

2021年08月25日(水)19時55分

その前の7月8日、アフガニスタンの難民・本国送還大臣は、治安状況の急速な悪化のために、EUに「口上書」を送り、3ヶ月間、強制帰還を停止するよう求めていたのだ。

そして、首都カブールにあるEU代表部(大使館に相当)も、ほぼ同時に、帰還を中止するようにEU本部に求めていた。それにもかかわらず、6カ国はアフガン難民を送り返したいというのだ。

6カ国は、もし求めに応じたら、相手に間違ったシグナルを送ることになる。これからますます状況が悪化したら、一層欧州を目指す難民が増えてしまう。だから断固として、移民はこれ以上受け入れず、帰還させる態度を示さなくてはいけない──と考えたのである。

一方、スウェーデンとフィンランドは、この求めに応じた。

欧州人権裁判所の要請

一体誰が、書簡をベルギーのメディアに流したのだろう。わからないが、間違いなく批判したかったに違いない。

首都カブール陥落が目に見えてきて、アメリカ人もイギリス人も、軍の保護のもと脱出を始めている。ドイツも、国民に国外退去を勧告している。

フランスはといえば、7月に既に脱出済みだ(相変わらず逃げ足が早い......仏国民にとっては頼もしい限りだが)。

それなのに「自分たちは逃げているくせに! そんな危険な所に、欧州まで亡命してきた人々を送り返すのか!」と、人間として怒った人がいたのだろうと思う。

結局、8月2日、欧州人権裁判所からの明確な要請によって、オーストリアは、アフガニスタン国籍者の国外退去を、一時的に停止しなければならなくなった。そのような非人間的で非人道的、品位を傷つけることはできないという判断だったのだろうという。

この判決のために、ドイツもオランダも態度を変えて、すべての強制帰還を一時停止した。ベルギーでは、この書簡は「恥ずべきもの」と扱われているという。

この問題は、欧州人権裁判所の要請によって、一応の収まりは見せた。でも内心不満がタラタラな加盟国政府は少なくない。これからどうなっていくのか、注目が必要だ。

どのくらいのアフガン亡命者がいるのか

それでは、いったいどのくらい同国からの亡命者がいるのだろうか。

EUの統計機関であるEurostatによると、2020年にEUに入域した亡命希望者は、全部で約41万6600人だった。

そのうち、アフガニスタン人は4万4000件強で、10.6%を占めていた。

これは、シリア人(15.2%)に次いで2番目に多い。

ちなみに同年、フランスでは、アフガニスタンが亡命希望者の出身国のトップだった。8886件の申請があったのである。

そして、EU関係者によると、前述の共同宣言によって、今年に入ってから、EUからアフガニスタンに送り返されたのは1200人で、そのうち1000人は出国時に「自発的に」と説明され、残りの200人は「強制的に」出国させられたということだ。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米が重要鉱物備蓄へ、120億ドル投入 中国依存低減

ビジネス

米ディズニー、25年10―12月期は予想上回る テ

ワールド

米特使、3日にイスラエル訪問 ネタニヤフ首相と会談

ワールド

インド26年度予算案、財政健全化の鈍化示す フィッ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗り物から「勝手に退出」する客の映像にSNS批判殺到
  • 2
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れるアメリカ」に向き合う「日本の戦略」とは?
  • 3
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 4
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 5
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」…
  • 6
    エプスタイン文書追加公開...ラトニック商務長官、ケ…
  • 7
    世界初、太陽光だけで走る完全自己充電バイク...イタ…
  • 8
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 9
    共和党の牙城が崩れた? テキサス州で民主党が数十…
  • 10
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story