コラム

追い詰められる島国、イギリス:「合意なき離脱」目前にコロナ変異株で交通遮断

2020年12月21日(月)12時45分

島国の住人は、周囲と遮断すれば安心感をもてるかもしれないが、そういう自分の行いが鏡に反映されるかのごとく、自分が周囲から遮断されると生きていけなくなる。

文字にするのはたやすいが、これが第二次世界大戦で日本に起こったことと本質は同じなのだと、今のイギリスの状況を見ていて会得した思いがする。

そんな島国が相手だからこそ昔、1806年、フランスのナポレオンは大陸封鎖令を敷いた。

でも欧州大陸の国々はバラバラで、フランスに反感をもつ国、産業革命が世界でまっさきに起きたイギリスとの貿易を優先させたい国、様々に思惑が交錯して、成功しなかった。

今、21世紀。欧州大陸は団結している。

ジョンソン首相がデア・ライエン欧州委員会委員長とブリュッセルで会談する前のことである。

委員長に会う前に、ジョンソン首相はドイツのメルケル首相とフランスのマクロン大統領に、個別に交渉することで事態を有利に運ぼうとした。

電話会談を申し出たのだが、二人には「すべての交渉は欧州委員会を通じて行われなければならない」と言われて、会談を拒否された。

このジョンソン首相の委員会を回避しようとする試みは、オランダのルッテ首相を含む英国に好意的でつながりの深い国にさえ、EU界で広く批判された。

ジョンソン首相は若い頃、『デイリー・テレグラフ』のEU特派員としてブリュッセルに駐在したこともあるくせに、EUというものがまるでわかっていないのだ。

グローバル化する世界において「自分たちで物事を決める」という真の主権をもちたいために、自国の主権を一部譲って創ったEUというものを、もっと大きな「人間の連帯」という思想のために、経済の利益を超えて団結したこの大組織を、そして、この右派的思想と左派的思想が時に対立しながらも、三歩進んで二歩下がりながら進化している、歴史上まったく新しい形のこの連合を、彼はまったく理解していないのだった。

歴史は繰り返さない。なぜか。欧州の国々は「歴史を繰り返すまい」と決意して、EUを創ってきたからである。

伝染病を前にEUはどうする

前述のBFMTVは、専門家の声を交えながら言っている──科学的研究は、これまでのところ、国境閉鎖は、せいぜい伝染病の到着を遅らせているくらいであることを示している──と。国境は完全防水ではないのだと。

人の通過を完全に遮断することはできないだろう。だから、遅延はあるだろうが、ウイルスの伝播は避けられないのだということだ。

そして、英国以外でも、この変異株の症例は、少数ではあるがWHO(世界保健機関)に報告されている。デンマーク、オランダ、そしてオーストラリアなど。

フランスのAFP通信は、欧州委員会に対して「英国から来る人に対する禁止措置が、すべてのEU加盟国に推奨されるかどうか」を質問したが、すぐの回答は得られていないという。

イギリス側の国際問題の鈍さ

そしてイギリス人の側は,漠然と大きな不安をもっているとしても、どこまで正確に状況を把握しているかは疑問である。一般人だけではなく、政治家さえも。

「非常措置」は、予定通り18日欧州議会で議決にかけられ、採択された。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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