コラム

追い詰められる島国、イギリス:「合意なき離脱」目前にコロナ変異株で交通遮断

2020年12月21日(月)12時45分

新たな変異株に対する各国の素早い対応は、自国民を守るために当然だとは思う。でも、もし英国が今でも変わらずEUの一員だったら、どうだっただろうか。

フランスは「注意深く」監視しているというが、真剣にイギリスとの遮断が必要か、イギリスを孤立させていいのか、という議論が起こっている。

自国民の保護か、隣国への救いの手か

ユーロトンネルは、イギリスとフランスの間を走っている。

トラック・バス・車などの輸送列車も、列車のユーロスターのロンドンーパリ間も、リール間(フランス)もブリュッセル間も、すべてこの英仏間のトンネルを通っている。

前にも増して、イギリスに向かうトラックの数は増えている。何千台ものトラックが、海のこちらとあちら側で、トンネルを渡るのを待って大渋滞である。

目的は、欧州大陸からイギリスに物資を運ぶこと。欧州大陸中で集められた物資を積んだ大型トラックは、フランスのパ・ド・カレ県にあるユーロトンネルの入り口に集まってくる。もうクリスマスのお休みに入るというのに、これからも一層数は増えるに違いない(そしてイギリスに到着したトラックは、再びトンネルを渡って欧州大陸に入り、物資を積んでイギリスに戻る)。

そしてフランスは、固定鉄道輸送に関して、イギリスと新たな国際協定の交渉を行う権限が与えられている。欧州議会が既に10月に、そのような法案を採択しているのだ。

もしフランス政府が、自国民を変異株から守ろうとしてトンネルを遮断したら? 空も海も遮断したら? それを非難できる政治家がこの世にいるだろうか。

「国境開放の問題は、パンデミックの開始以来、テーブルの上に出されています」と、ユリス・ゴッセは述べた。フランスの24時間ニュース放送局のBFMTVの国際政策コンサルタントである。

「しかし、今、イギリスを孤立させることは、非常に重要な政治的、経済的な結果をもたらすでしょう」「飛行機や鉄道、船を運休させたら、イギリスは何も残らなくなってしまいます」と彼は言う。

何も残らない──つまり、イギリス人は、主権どころか、今までのように生活することすら難しいという意味であろう。

イギリスはフランスにとって、13世紀の百年戦争以来続いたライバルなのに、相手を孤立させてはいけないという意見は、最大の友であり敵であった相手への友情なのだろうか。それともイギリス保守派や極右があれほど嫌ったEUの存在のために、欧州で組織として根付いた「連帯の精神」ゆえなのだろうか。

イギリスの食料自給率は約6割。日本とだいたい同じである。小麦は自給しているから飢えて死ぬことはないだろうが(日本の米と同じ?)、野菜や果物の多くを輸入に頼っている。輸入の8割が欧州大陸からなのだ。

今でも大渋滞のために、イギリスに輸送するはずの生鮮食料品が輸送できずに、大陸側の倉庫でどんどん鮮度が落ちてゆく有様になっている。

フランスは、イギリスの生殺与奪権を握ってしまったと言っても良いのではないか。他の欧州大陸の国はイギリスとのコネクションを閉鎖できても、フランスが行ったらイギリス人はどうなってしまうのか。

歴史は繰り返さない

イギリスは、島国だからこそ「栄光ある孤立」が保てた。大英帝国時代、どこの国とも同盟しないという、非同盟政策だ。

この意識は今でもイギリスの超保守派に残っているのだろう。

そしていま、島国だからこそ、閉じ込められて窮地に追い詰められようとしている。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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