コラム

追い詰められる島国、イギリス:「合意なき離脱」目前にコロナ変異株で交通遮断

2020年12月21日(月)12時45分

この非常措置法がなかったら、1月1日以降、英国とEU加盟国の間には1本の飛行機も飛べず、1本の列車も走れないリスクがある。

欧州議会で採択したことで、EU側は、もし合意がなくても、両者の空と道路のコネクションは条件付きで6ヶ月、一時的に延長することを法的に保障した。ただしこれは、同じことを英国側が守ることが条件である。

しかし、これを有効なものとするには、英国議会側の採択が必要なはずだ。

この情報が、あまりみつからない。The Northern Echoという、イングランドの北Durhamに本部がある地方紙が、大変面白い記事を載せていた。

たった数日で貴族院(上院)を通過させねばならなくなったのだが、貴族院議員たちの困惑を描いているのだ。

この記事では、この法案を「パニック・ステーション法案」と呼んでいた。

労働党上院のリーダー、スミス卿は、一時的な法案は「賢明な予防措置」であると述べたが、「なぜ今なのか疑問に思う......12月16日に政府は突然、次の数日間でこれらの条項が必要であるとわかったと決定した。今日よりも前に明らかになっていたと思うのだが」と付け加えた。

自由民主党のニュービー卿は言った。「国際貿易省では一体何が起きているのかと思う......彼らはたった数日前に、法律に隙間があることに気付いたということか。何年も前から、適切な協定が成立しないことは明らかだったのに。この『パニック・ステーション』法案が導入されなければならなかったとは、そちらがむしろ心配だ」

「国家百年の計」なのか

彼らの不安は「この真のブレグジットが目の前に迫った今頃になって、そんなこと気づいたのか」である。非常措置法は、EU側からの提案であった。

一般市民としては「議員であるあなたたちが、なぜ気づかなかったのか。そちらがむしろ心配だ」であろう。

なぜこんな事態になったのだろうか。

筆者は以前、「イギリス側は主権ボケしている」と書いた。でも、それだけではない。

一説には、EUに貿易協定を結ぶ主権が譲渡されてから、人材が英国にいなくなったという言い分がある。でも、これはEU加盟国は全部同じだろう。

コロナ禍でそれどころではない? これもEU加盟国は同じ悩みを抱えているだろう。

筆者は思うのだ。様々な欠点はあっても、27カ国の叡智が集められる組織と、たった1国では、知性の結集のレベルが違うのだと。27カ国が結集して27倍になるのではない。相乗作用で、さらにもっと大きな効果が得られるのである。

主権を取り戻したいというイギリス人の気持ちは、主権をもっている国、日本の出身の私は理解できる。でも、イギリスが加盟してから約50年、マーストリヒト条約から見たら約30年。EUを離脱して、その30年来、50年来の成果をご破算にして、今後新たなものを取り戻すのは、もう不可能だと感じる。

「主権を取り戻すのは、国家百年の計ではないか」などと寝言を言ってはいけない。「国家百年の計」とは、輸送と連絡手段が、馬と船しかなかった時代にうまれた表現である。21世紀では、十年で世界は大きな変化を遂げる。イギリスは、数十年分の「遅れ」を取り戻す前に、二流国への道をたどっていってしまうだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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