コラム

国際社会から非難される「人権弾圧大国」イランと外交で協調する岸田政権、日本が失うものとは?

2022年11月09日(水)12時25分
イラン

alexis84-iStock

<「不適切な服装」の22歳の女性の死、ロシアへのドローン提供など、人権問題で批判されるイランと「伝統的友好関係の一層の強化」をする日本政府。二枚舌外交の代償を払うのは日本国民>

イラン・イスラム共和国が2つの「疑惑」で世界の注目を集めている。1つはロシアに自爆ドローンを供与した疑惑、もう1つは国内で拡大する反体制デモを暴力的に弾圧している疑惑だ。

米国務省は8月にはイラン製ドローンがウクライナ戦に導入されたと分析するが、ロシアは使用されているドローンはあくまでもロシア製だと言い張り、それがイラン製だという指摘は「根拠のない非難」にして「陰謀」だと主張、イランもこの疑惑を否定している。

一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、イランがロシアにウクライナ人の殺害手段を提供して血にまみれた金を稼いでいると指摘し、イランを明確に非難。

ウクライナ空軍司令部も10月30日に同空軍が9月13日以降、300機以上のイラン製自爆ドローンを撃墜したと報告した。ウクライナ国防省はイランとロシアを「2つのならず者国家」と呼んでいる。

無辜の市民に対する無差別攻撃は戦争犯罪に当たる。米ニューヨーク・タイムズ紙は10月18日、イランはウクライナに人員を送りドローン操作を指導していると報じた。イランはロシアの戦争犯罪に直接加担している可能性があるのだ。

イランは国内では苛烈な人権弾圧に手を染めていると報じられている。22歳の女性が「不適切な服装」をしていたという理由で道徳警察に拘束され、その後死亡したことが報じられたのを機に抗議デモが始まったのは9月17日のことだ。

デモは全国に拡大し、当局による実弾を用いた弾圧についても報じられるなか、10月17日、人権団体イラン・ヒューマンライツはデモ開始以来、少なくとも215人が死亡したと報告。国連は11歳の少年を含む子供計23人が治安部隊に殺害されたとみられると公表した。

アメリカ、カナダ、イギリス、EUは2つの疑惑についてイランを「クロ」と見なし、非難声明や追加制裁を次々と発表した。10月31日にはニュージーランドのマフタ外相が「普遍的人権の行使を妨げる暴力は容認できないし、終わらせなければならない」と述べ、イランとの二国間人権対話の一時停止を発表した。しかし日本政府の対応は全く異なる。

岸田首相は9月21日、ニューヨークでイランのライシ大統領と会談し、長年にわたるイランとの伝統的友好関係の一層の強化に向けて協力していきたいと述べた。外務省ホームページにはにこやかに握手する2人の写真が掲載されている。

プロフィール

飯山 陽

(いいやま・あかり)イスラム思想研究者。麗澤大学客員教授。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(東京大学)。主著に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『中東問題再考』(扶桑社BOOKS新書)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏一族企業のステーブルコイン、アブダビMG

ワールド

EU、対米貿易関係改善へ500億ユーロの輸入増も─

ワールド

ウクライナ南部ザポリージャで14人負傷、ロシアの攻

ビジネス

アマゾン、第1四半期はクラウド部門売上高さえず 株
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story