コラム

リンチの末、見せしめに遺体をバラバラに...タリバン「LGBT狩り」の恐怖

2021年10月20日(水)13時13分
トルコのLGBTQ支援者

アフガニスタンのLGBTQへの支持を呼び掛ける(8月、トルコ) CAGLA GURDOGANーREUTERS

<アフガニスタンを支配するタリバンに怯える同国のLGBTたち。証言によれば、すでに非人道的な行為がはびこっているという>

「複数のタリバン兵が彼を散々殴った後どこかに連れて行き、誰も知らないところで殺した。その後、彼の遺体を持ち帰ってバラバラに切断し、これが同性愛男性に対して行うことだと人々に見せつけた。彼は24歳だった」。英iニュースに対し、アフガニスタンのある同性愛者の男性はこう語っている。殺されたのは彼のパートナーだ。

8月にアフガンを実効支配したタリバンが各地で「LGBT狩り」をしているという証言は多い。別の同性愛男性はドイツの国際公共放送ドイチェ・ヴェレに対し、タリバンの中には同性愛者を探す専門の組織があり、同性愛者を見つけると躊躇なく殺していると述べている。

一般にイスラム社会における同性愛嫌悪は非常に強い。イスラム教の聖典コーランに同性愛者が神によって罰せられたという章句があり、同性愛行為は神の秩序に反逆する不道徳で禁じられた行為だとイスラム法に定められているためだ。

8月に就任したイランのライシ新大統領は2014年、「同性愛は野蛮にほかならない」と発言している。アメリカを拠点とするイラン人権センターが8月に公開した情報によると、イラン当局はLGBTにむち打ちや投獄といった刑罰を科しているだけではなく、同性愛という「障害」を治療するため電気ショックや辱めといった肉体的・精神的拷問を加え、それでも「治癒」しない者には性別適合手術を強制している。

こちらのほうがよほど野蛮に見えるが、イスラム的価値観において野蛮なのは拷問ではなく同性愛のほうだとされる。

石打ち刑か、壁に押し潰される刑か

20年4月にはトルコ宗務庁トップのエルバシュ師が「悪である同性愛がパンデミックを広げている」と発言し、トルコのエルドアン大統領は「彼の発言は全く正しい」と賛同した。首都アンカラの弁護士協会がこれを「同性愛者への憎悪をあおった」として非難すると、宗務庁は「宗教的価値観を侮辱した」として当該弁護士らを刑事告訴した。弁護士らは侮辱罪で実刑判決を受ける可能性がある。

8月に崩壊した旧アフガニスタン政権下でも同性愛行為は違法とされていたものの、少なくとも死刑が執行された例はなかった。一方、独ビルト紙は7月、タリバンの裁判官が「同性愛者に対しては、石打ち刑か、(倒れる)壁に押しつぶされる刑罰しかない。壁の高さは2.5~3メートル必要だ」と語ったと伝えている。

プロフィール

飯山 陽

(いいやま・あかり)イスラム思想研究者。麗澤大学客員教授。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(東京大学)。主著に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『中東問題再考』(扶桑社BOOKS新書)。

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